6 / 126
第6話
すげぇキス魔がいる。
そんな話を聞いたのは、進級して数週間経ったある日のこと。オリエンテーション終わりの、ダラっとした空気の講義室の中だった。
「え、なになに、そのキス魔って」
チョー面白そうな話してんし!俺食いついたわけよ、その話してた連中に。
あ、別に親しい奴じゃないんだけどさ。あんまそういうの気にしないから俺。
「え、あぁ、スノボサークルの奴なんだけどさ」
急に話かけたからちょっとびっくりしてたけど、ちゃんと教えてくれる。
「そもそもスノボサークルなんかあったんだぉ、知らなかった」
「え、そっから?」
「俺なんにもサークル入ってねぇからさ」
「あ、そうなの?」
「そーなの、その分バイトにつぎ込んでて」
ほら、もう昔っからの友達みたいに話ししちゃうでしょ?
こうなると、向こうの方も話したくて仕方なくなってくる。
「先週、スノボサークルで新歓コンパあったらしいんだけど、参加してた奴が酒飲んで誰彼構わず捕まえてキスしまくったらしいんだよ。もう新入生からOBまで、片っ端から唇奪ったって。ほぼコンプリートだったらしい」
「マジー? 今からキス魔って将来有望すぎじゃん」
「ファーストキス奪われたっつって泣いた女の子とかもいたんだってよ」
「はぁ~、それはそれは……。でもファーストキスくらい高校までにしておけばよかったのにね」
って、つい数ヶ月前に童貞卒業したばかりの俺の言う台詞じゃないか。
ともだちにシェアしよう!