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第93話
「すごくないよ」
「いや、すごいって。普通あんな風に歓迎されないって」
「それはほら、俺も書道やってる人だから」
「ホントにそれだけだったら、写真なんか撮られねーって」
やっぱすげぇなぁを連呼していると、彼が急に立ち止まった。
「あのさ」
俯いてぽそっと呟くように言う。
「あんまりそういう風に、すごいとか言われるの、嫌なんだけど」
「えっ?」
一瞬意味が分からなくて顔を寄せて聞き返すと、ちょっと怒った顔をして振り返る。
「だから、あんまりすごいとか書家とか言われたくないんだって」
「えっ」
だって書家じゃん、と言おうとしたけど、ほんの少し悲しそうな顔をしたのを見て、一瞬で言う気をなくした。
「ホントに嫌なんだよ、好きで続けてきただけなのに、すごいとか言われんの。別に認められたいことじゃないのに、みんな言うんだよ、プレッシャーかけるみてぇにさ」
もうホント心の底から嫌で仕方ないっていうのがすんごい伝わってきて、槍を突き通すみたいにおもいっきり心臓に突き刺さる。
あぁ、俺なんだかとんでもないこと言っちゃったんだ。はっきりと原因がわからないまま、足下からじわじわと事の重大さが迫ってくるのを感じる。
「ホントにただ好きだからやってただけで、賞とかコンクールとかコンテストとかそういうの全然興味なかったんだよ。ただ書道が好きだからってだけでさ。いろんな人の作品見て、交流して、普通に楽しくやれればよかっただけなのに、みんな俺の肩書きとか家柄とかばっかりに食いついてきて、全然嬉しくない」
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