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第92話
「ご案内します、どうぞこちらへ」
ただでさえ清楚な雰囲気の彼が、少し貫禄をまとって会場内を歩く。俺は半歩後ろを着いて歩いた。本当に別世界の人みたい。
書家として、彼がどのくらいのポジションにいるのかわからないけれど、町外れの文化会館でこの待遇って結構すごいのかもしれない。それがすごく誇らしいけど、ちょっと遠い存在のようにも感じちゃう。
途中で疲れて会場外の廊下沿いの長いすに座っていると、しばらくして彼が現れる。
「ごめん、お待たせ」
すっかり書家ではない、俺が好きになった彼に戻っていた。
「あ、うん」
あまりにも自然に声をかけられて、ちょっと驚く。
「帰ろうか」
すでに1時間が経過していた。昼飯食うにもちょっと遅いくらいの時間になっていたけど。
「メシ、どうする?」
ゆっくり立ち上がってのびをしながら聞いてみる。ファミレスでいいと一言。
「ん、じゃ、行くか」
「うん」
また連れ立って歩いた。外に出ると空の黒さが増していて、寒さも強くなっていた。2人して肩をすくめて歩く。
その肩に、さっきの書家としてのオーラはまるでない。ほんわかしてて可愛い、俺の好きなオーラが漂う。
「なんか、すげぇな」
ギャップのすごさをそのまま口にすると、歩きながら、ちらっと彼が俺を見てきた。
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