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第108話
「うん……」
長い睫毛の影が涙袋に落ちている。影ごと睫毛が上がって、まっすぐ俺を見てくる。
「俺も、お前に触りたい」
この時の顔が、俺の見てきた表情の中で一番色っぽくて可愛かった。目をキラキラさせて、ほっぺただけ赤くして、濡れた唇をうっすら開いて。恥ずかしさと探究心が混じり合った表情で。
なんかヨコシマな気持ちでここまで来ちゃった汚れた自分が恥ずかしいくらい、本当に真っすぐで綺麗な目をしてる。あんまり綺麗すぎて、神仏拝んだみたいな清々しさすら感じたほどだった。
「もー、マジで……マジで可愛すぎる……無理……」
こんな可愛いのが俺と付き合ってくれて、しまいに今体を求め合おうとしてるの。信じられる? 俺ちょっと今になって信じられないんだけど。改めて抱きしめると、ぽんぽんと軽く背中を叩かれた。
「そんな可愛くないから。お前の方が可愛いよ」
「俺っ? 俺は可愛くないでしょ」
「可愛いよ、忙しなくて小動物みたいで」
「褒めてんのそれ?」
「褒めてるつもりだけど」
褒められてる気もしないけど、彼が褒めてるっていうなら喜んで受けよう。
「優しくするからさ」
自信満々に言うけど、彼は不思議そうに「男同士なのになんでそんな慣れてんの?」と首をかしげる。そう言えば言ってなかったな。
「あのさ、実は俺の初体験の相手、男なんだ」
「はっ?」
目をまん丸くしてる。
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