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第125話
「わり、下にいるから降りて来いって。じゃあな」
兄さんは大して気にするようでもなく、さっさと荷物をまとめ出した。
黒いウールジャケットを羽織ると、いつもよりシックな雰囲気になる。
「えーっ? 旦那も来ればいいじゃん、一緒に飲もうよぉ」
「SPと秘書にそこら辺で飲むのダメだって言われてんだとよ」
「えすぴーとひしょだって! カッコいいんだけど」
ゲラゲラ笑ってる間に会計も済ませ、ちらっと俺のカノジョの方を見た。
「こいつマジでバカだから疲れると思うけど、まぁよろしくやってやって」
なんて置き土産をして。カノジョの肩に軽く手を置いて、颯爽と店を出る。
「うー、つまんなぁい」
こんな時は飲み直すに限ります。カノジョに座るように促すけど、なんだか生気でも抜かれたみたいにぼんやりしてる。
「……どしたの?」
「いや、大人って感じだなと思ってさ」
「大人? はぁ、まぁ大人だよね」
言葉の真意が読み取れないままにビールを二人分注文すると、マスターが両手のビールをカウンターに乗せて、お会計は頂いてますからと言うのだった。
「え? まだ払ってないけど」
「先ほど一括でお支払いいただきました」
「え?」
すぐに兄さんのことだと思った。さすが、やることが随分スマートで。
「大人だなぁ」
カノジョが呟いた言葉の真意を知るのだった。
じゃあ、ありがたく頂戴するとしよう。また改めて、カノジョを紹介するとして。
「乾杯しましょーか」
いつものバーで、今日は大切な人と二人、幸せを噛みしめるとしますかね。
―終-
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