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第9話
「いつから気付いてたんですか?」
「……バラの棘。指の舐め方が似てたんだよ」
「誰と?」
「シキ……いや、シキと名乗っていた神楽坂……お前と」
マスクを外した男は紛れもなく神楽坂だった。
髪を下ろしたままの神楽坂を見たのは初めてで、髪型一つでこんなにも変わるものなのかと正直びっくりした。
「で、どっちが本当のお前なんだ」
「どっちも本当の私ですよ。でも、シキとしての私はちょっと背伸びしてました。それと、前に話したことありましたよね?ロミオとジュリエットの台詞の話」
ゆっくりと俺の目の前まで歩み寄り、数時間前にこの場所で話した会話を神楽坂が再び口にする。
「 “バラと呼ばれるあの花は、他の名前で呼ぼうとも、甘い香りは変わらない”……覚えてますか?」
「あぁ……」
「要はこれと一緒なんです」
「一緒?どういう事だよ」
「梨人様を好きな私はシキだって神楽坂だって変わらない。どちらの名前でも貴方を愛してることに変わりはないのです」
好き?
愛してるだと?
ちょっと待て、こいつはいきなり何を言い出すんだ?
「好きってなんだよ、お前が俺を好きだと?」
「はい。梨人様は全く気付いてませんでしたけどね。それだけじゃない、貴方は私に好意を抱いていながらもシキにも同じ感情を抱いていたでしょう?」
「お前、なんでそれを」
「私が気付いていないとでも?」
神楽坂が言うように、俺はこいつの事がずっと好きだったし、シキに会う度に惹かれていったのも事実で、
「梨人様ってご自分が思ってる以上に分かりやすくて素直ですよ。マスクを付けている時は特に。私に抱かれている時の貴方は素直で可愛かったです」
それに、急にそんな事まで暴露され、恥ずかしさで顔が熱くなっていく。
「だから、貴方と対等な立場でいられるならこのまま素顔を明かさないままでもよかったのですが、シキとして接していると、次第に自分で自分に嫉妬するようになったのです。私のキスで素直に感じてくれていてもそれはあくまでシキとして。だから、いつか素顔のままで貴方とキスがしたいと思うようになってました」
「だったら、こんな真似しないで神楽坂として俺に気持ちを伝えたらよかったじゃないか」
何故、こいつはこんな回りくどい事をしたのか。
すると、指先がまだ痛む方の俺の手を取り神楽坂は再び口を開いた。
「言ったでしょう?対等でいたかったって。マスクを付け、素顔を隠したままなら私と貴方は対等でいられる。それに梨人様は私を勘違いしてらっしゃる」
「勘違い?」
「私に好意を抱いているのにそれを隠し、この手をも触れようとしないのは私を余程純粋で真っ白な人間だと勘違いしているから」
「……そうだよ、お前は俺と違って真面目で純粋で俺が触れたらいけないくらい真っ白だ。だから……」
「触れたら穢れるとでも?」
そして、そこまで告げるとその指先に唇を寄せた。
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