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「……天宮くん」  声をかけると固く閉ざしていた瞼が開き、黒く濡れた瞳が僕をしかと捉えた。 「あっ……さ、坂間さんっ……」  情事の最中に名前を呼ばれることのなかった僕は、非常に驚いた。胸に込み上げた熱い感情に、戸惑いと歓喜の念が溢れ出す。 「……天宮くん。僕はね、今決心したのだ。僕は死ぬまで君と一緒にいる腹づもりだと――」  そう言って天宮くんの唇を優しく重ね合わせる。今までにない、情愛を宿した口づけだ。あんな欲に駆られ、ただ快楽を貪るような遊戯などは間違っていたのだ。  天宮くんは回していた腕を緩めると、手のひらが僕の頭部に触れ、流れるようにして頬に降りていく。熱を持ったその手は、いつもの凍えているような体温の低さを感じさせない、彼の興奮を示しているかのような熱さだ。  天宮くんの方から吸い付くような口づけを与えられ、僕は再び貪るように天宮くんの口腔を舌で(まさぐ)っていく。 「ふっ……はぁっ、ん……」  天宮くんの舌も積極的に絡みついて来て、とてつもない幸福感に僕は溺れてしまいそうだった。 「はぁっ……もう、達してしまいそうだよ」  僕は体を起こすと、天宮くんが「……僕もです」と言って頬を緩め笑みを零す。  ああ、僕は何故今まで気づかなかったのだろうか――  天宮くんのこんなにも、儚げでいて妖艶な姿を僕は危うく失ってしまうところだったのだ。 ――覆水盆に返らず  そうはならずに済んだことに僕が胸を下ろした事は、言うまでもないだろう。 終

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