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第14話

研修を終えた週末、トキがこっちへ来てくれることとなった。 今回は、ホテルは取らずに、俺の部屋に泊まる事となった。 今は掃除中で、トキの到着を待っている。 お試し期間が決まったその週の仕事は何故だかバリバリできた。 自分のメンタルがトキで出来ているのではないかと思ったほどだ。 チャイムが鳴る。 ドキドキしながら、俺はドアを開けた。 「おはよう」 「は、早かったな!」 そこには、柔らかく微笑む時の姿があった。 こんな表情もするのか、とドキリとする。 それが自分に向けられている事にも、なんだか、トキの特別になれたようで嬉しかった。 お試し期間は一か月。その間の週末はどちらかが会いに行こう、という事になった。 出費は痛いが、トキもこうして俺に会いに来てくれるからそんな事、気にならなかった。 荷物を下して、トキが俺の隣に腰かける。 それだけの事で心臓が破裂しそうなほどバクバクと音を立てた。 「お試しって言っても、特にする事に変わりはないな」 「ホントだな!」 そうして笑い合った。 俺は、こんな時間でも嬉しくて仕方ない。 トキもそう思ってくれていたら嬉しい。 「あ、そうだ」 トキが鞄の中からなにやら取り出した。 トキの母親から俺にと、桃を持たせてくれたようだった。 俺が昔から桃を好きなのをおばさんは知っている。 トキにお礼を言って、桃を向く事にした。 台所へ行き、桃の皮を剥く。 「…はる」 後ろから、トキに抱きしめられた。 「っトキ危ないよ。皮が剥けない」 「何か、不思議な気持ちだ。すごく、お前を守ってやりたいって思った」 「なにそれ。良く、解んない」 「俺も解んないけど…なんかドキドキする」 「トキ…っほら、危ないから! 離れろって」 「残念」 ちゅっと、耳朶にキスを落として、トキは俺から離れた。 ドキドキが止まらない。 こんなに、甘い雰囲気のトキを俺は知らない。 きっと、千鶴ちゃんにもこうしたのかな、と思ったら少し胸が痛んだ。 桃の皮を剥き終えて、トキの元に持っていく。 二人で食べつつ、テレビを見た。 「あ、昼飯、どっかで食べる?」 「そうだな。この間のラーメン屋行くか?」 トキの提案もあり、昼はラーメンになった。 それまでまだ時間がある。 どうしようかと考えあぐねていると、トキの手が伸びてきて、俺の頭を自分の方へと引き寄せた。 「なっ何?」 「恋人期間、なんだろ? だったらそれらしいことするのがいいのかなって思って」 「トキは嫌じゃないのか? 男の俺で…」 「少なくとも、今は嫌じゃない。可笑しいな、こんな感覚今までお前に持った事ないのに…いや、気付かなかっただけ…なのか?」 「トキ…」 「これも、芦田さんのおかげかもな」 そう言って笑うトキ。 嬉しくて俺も笑った。トキの肩はがっしりしていて、男らしくて安心できる。 ずっと、こうしていたいと思った。 「俺、お前が好きだよはる」 「え!?」 「凄く、大事なんだ。でも、俺と付き合う事で世間の目とか…そういうのが怖くて。ただ、やっと気づいた。俺は、はるが世界一大事なんだって」 「あ、俺……」 「ずっと、俺の事を好きでいてくれてありがとな。遅くなったけど、俺ようやく気付いた。お前の事が好きだ。はる。お前が嫌じゃなければ、世間の目なんて怖くなければ…俺と、付き合ってくれないか?」 「っトキ……そんなの、怖くない! 俺は…っトキと一緒に居れるだけで幸せなんだ…!」 トキにしがみ付く。それが俺からの答えだった。 それを解ってくれたのか、トキが抱きしめ返してくれた。 「これって、お試し期間、どうなるんだ…?」 聞くと、トキはニヤリと笑った。 「お試し期間はお試し期間、だろ?」 顎を持ち上げられ、唇を奪われた。 なんだかずるい――そんな気持ちも、一緒に飲み込まれた気がした。

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