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チョコ 菓子 愛

駅前通りから少し奥まった場所にある、こじんまりとした喫茶店。 夕刻に来るいつものお客様は、いつもの窓際席に座り、いつものコーヒーを注文した後、一人静かに読書を嗜む。やがて空が茜色に染まると、読みかけの本に栞を挟み、店員の僕に丁寧に挨拶をし店を出て行く。 営業の外回りを終え、帰社するまでの隙間時間を利用しているのだろう。スラッと背の高いスーツ姿の彼は、面長ながら切れ長の大きな瞳が優しそうに潤み……目か合う度に、不覚にも胸が高鳴ってしまっていた。 カウンターの奥にある洗い場で、片付けをしながら時計を仰げば、いつもの彼が来る時間を教えてくれた。 ……カランッ その時ドアベルが鳴り響き、肩がびくんと跳ねる。 「いらっしゃいませ」 タオルで手を拭きながら振り返れば、やはりいつもの彼。 いつもの席に向かい、羽織っていたトレンチコートを簡単に纏めると、ビジネスバッグと共に、空いた椅子に置く。 「……あの……いつもの、で宜しいでしょうか?」 いつもの席に腰を落ち着ける彼に、怖ず怖ずと尋ねてみる。 こういう聞き方をしたのは初めてで。トレイを持つ手の指先が震えるのが解った。 その聞き方に驚いたのか。少し見開いた目が此方を向いた。 「……あ、いえ。今日は──」 癖なのだろう。少し速めの瞬きを数回し、彼が窓の外へと視線を逸らす。 「ホットココアを」 勇気を振り絞って尋ねたものの…… いつもとは違うものが注文されて、少しだけ凹む。 でも、確かに今日は雪もチラついていたし……ココアが飲みたくなる程、寒いよね。 確かココアって、身体を温め易くして冷めにくいって……聞いた事あったな…… カウンターに戻り、予め温めておいたカップにココアを入れ、温めた牛乳を注いで溶かす。 いつもとは違う、甘い香り。 優しい色合いのココアをトレイに載せた後、不意に、先程彼が見た窓の外へと視線を向ける。 ……あ…… 洋菓子店の入口にある垂れ幕に『バレンタイン』の六文字が。 ふと、手元にあるココアに視線を落とす。 別名……ホットチョコレート。 「──っ!」 かぁぁ、っと頬が熱くなる。 バレンタインの今日。思いがけず僕が彼にチョコを渡す形に…… そう思ったら耳まで熱くなり、緊張でトレイを持つ手が震えた。

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