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マナーモード 好き 連絡
頬に触れる、綺麗な長い指。
絡まる視線。
ただ、それだけなのに……
トクトクと鼓動が早くなり、頬が次第に熱くなっていく。
他には誰もいない、二人だけの空間。
そこに漂う……初恋のような、甘酸っぱい雰囲気。
ラジオから流れる音が遠ざかり、もう、僕の耳には届かない。
感じるのは……お互いの息遣い。高鳴る鼓動。
頬に触れられた、指先の熱──
──プルルルル
けたたましく鳴り響く、着信音。
その瞬間──淡く柔らかだった甘い空気が、壊れて消える。まるで、しゃぼん玉のように。
スッと引っ込まれる指。目を見開いた後、数回瞬きをした大きな瞳が気まずそうに揺れる。
「……すみません」
スーツの内ポケットを弄りながら僕に背を向け、足早に店を出ていく。
「……」
……トクン、トクン……
まだ落ち着かない心臓。
先程までの出来事が、何だか夢を見ていたかのようで。
……綺麗で、真っ直ぐな瞳だった……
あんな優しい瞳を向けられたら……意識しちゃうよ……
胸に手を当てた後、指を伸ばし、その先でそっと頬に触れる。
触れられていた所が──まだ、熱い……
「……!」
唐突に震える、携帯。
僕を現実に連れ戻したそれを、カフェエプロンのポケットから取り出す。
液晶画面に表示されていたのは、未登録ながら見覚えのある番号。
出ようか出まいか、躊躇しているうちに振動が止まる。
暫くして表示された、留守電のマーク。再生ボタンを押し、耳に当てる。
『……双葉、今どこにいんの……?』
『逢いてぇよ。……双葉、凄ぇ逢いたい……!』
それは、元彼──悠からだった。
切迫詰まったように、僕を求める悲痛な声。
懐かしさと愛しさが込み上げ、意地悪く僕の心を揺さぶる。
今更……ズルいよ……
……もう、悠とは……終わったのに……
窓の外に目を向ければ、此方に背を向け電話応対をするスーツ姿の彼が映る。
「……」
その広い背中を縋る様に見つめながら、ゆっくりと携帯を耳から離した。
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