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星 息 眼鏡

《申し訳ありませんが、お約束した時間を過ぎてしまうかもしれません。 また連絡します。 渡瀬誠》 携帯画面に表示されたメッセージ。 映画を一緒に観に行く約束をし、お互いの名前や連絡先を交換した事が……未だ夢のようで…… ……まだ、ドキドキが止まらない…… 〈わかりました。お待ちしてます。〉 そう短く打ち込む指が、甘く痺れて……いつもより上手く動かせない…… ……顔が……熱い…… 「お待たせしました」 この時間になると、学校帰りの女子高生や社会人の女性グループが来店し、店内が賑やかになる。 カウンター中央に座る二人組のお客に注文の品を出せば、感嘆の声が上がった。 「……うわぁ、美味しそう!」 「でしょ? ここのハニートースト、マジ絶品だからっ!」 一斤丸ごと使ったハニートーストは、バニラアイスの上にローストスライスアーモンドとたっぷりの蜂蜜が掛けられ、シロップ漬けのさくらんぼとミントが添えられてある。 ほろ苦いコーヒーの香りをかき消し、蜂蜜とバターの混ざった甘ったるい匂いが店内に広がれば、僕も幸せな気分になる。 「えー! 初デートっていったら、ふつう映画でしょ!!」 カウンター中央から、突然上がる声。 長い髪をアップにし、カラフルな星形のピアスを揺らす彼女が、黒縁眼鏡を掛けたセミロングの彼女に捲し立てる。 「会話が無くても場は持つし。……ほら、その後お茶しながら映画の話で盛り上がれるでしょ。 ……それに、上映中って暗いし。映画館の座席って結構距離近いじゃん!?」 「………うん」 「そっと手とか繋いじゃったりとか、あるかもしれないし」 「……えっ、……そ、そうだね」 「……」 聞き耳を立てるつもりは無かったけど…… 彼女達の会話を聞きながら、誠さんと一緒に映画を観るシーンを想像し、緊張が走る。 すっかり辺りは暗くなり、店仕舞いをして外に出る。 ……はぁ…… ピンと張った空気。 熱い息を吐く度に、白い薄靄が闇へと消えていく。 冷えてツンとする鼻先。首に巻き付けたマフラーを引っ張り上げて、そこを覆う。 連絡が入っているか確認しようと、悴む手で携帯を取り出した……時だった。 「……!」 手中の携帯が震える。 開いたメッセージに目を通せば、胸の奥がトクンと甘く揺れ、口端が緩く持ち上がるのを止められなかった。 《今から向かいます。 約束の時間に間に合いそうなので、ご安心下さい。 それでは、また後ほど。 渡瀬誠》

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