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土 猫 学校

目深に被ったキャップの上に黒いパーカーのフードを重ね、耳が隠れる程長いブラウンベージュの毛足から、微かに光るシルバーピアスが覗く。 ──ゆ、う…… 見開いた瞳に映る悠は、以前と何も変わってなくて。 一瞬、あの時に巻き戻ったかのようなさえした。 ……悠…… 携帯から聞いた声とは違う。 懐かしさと愛おしさが溢れ出し、心が、身体が……震える…… 「双葉!」 「……」 パーカーのポケットに両手を突っ込み、僕だけを真っ直ぐに見つめる悠。 その視線とぶつかったまま、動けない僕。 その間を、何も知らない人達──学校帰りの学生、若いカップル、年配者が自由に行き交う。 それまでの喧騒は全て消え、悠以外、全てのものが灰色掛かって霞んでいく。 「………悠」 口にしてしまえば、現実味が帯びてしまう。 熱くなっていく目頭。 早鐘を打つ心臓。 悠に惹かれる衝動に駆られながら、それを誤魔化すように……感覚の失った指先を、ギュッと握り締めた。 ──スッ、 その瞬間。 直ぐ目の前を横切る女性。 抱っこ紐に猫耳フード付きのマシュマロケープを覆い、幸せそうに微笑みながら……僕から悠を掠め取る。 ──赤ちゃん…… そう思った瞬間、否応なしに現実を突き付けられる。 それまで失せていた音も、色も、気配も……何もかもが、元通りに戻っていく。 通り過ぎていく女性と共に…… 「……」 そうだった。 悠はもう……僕の知ってる悠じゃない。 ……それはきっと、僕だって…… ぽつ、ぽつ、 心の奥深くに降り注ぐ雨。 それが次第に強くなり……土砂降りへと変わっていく。 泥濘んだ足元。 悪戯に掻き乱す僕の心に、不安な影が差す。 ……会いたく、なかった。 こんな場所で。こんな形で…… 今頃僕に会いに来たって……もう、遅いのに──

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