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紅茶 地球儀 愛憎

口の開いた、シュークリーム入りの箱。 湯気を失った紅茶。 そのテーブルの向こうで絡み合う、四本の足。 一瞬──何が起きたのか、解らなかった。 ぐるりと視界が縦に回り、天井で止まる。その視界を遮るように悠が覗き込み、僕の顔に暗い影を落とす。 「……やっぱ痕、消えかかってんな」 僕に跨がり、顔の両側に手をつく。 鋭い視線。その先にある首筋を、僕は片手でそっと覆う。 「……ゆ、悠のせいで……」 言いながら、視線を逸らす。 もしこれが無ければ──脳内に浮かんだ地球儀。それを逆回転し、時間が巻き戻っていくのを想像しながら、あの時避けられた未来を密かに願う。 「俺のせいで、何?」 「……」 「……なぁ、双葉。浮気したら、ぜってー許さねぇからな」 悠の口の片端が持ち上がり、冷めた笑みを洩らす。 ……え…… ゾクッと、身体が震える。 一方的に僕を捨てておいて、何で、そんな事…… 「んだよその目。約束しただろ、俺のモンになるって……」 「──それは!」 反論しようと口を開いた瞬間──僕の唇を悠の唇が強引に塞ぐ。 悠を押し返す僕の両手は軽々と掴まれ、床に強く押さえつけられる。 「……ゃ、ゆぅ……んっ、」 歯列を強引にこじ開け、侵入してくる熱い舌。逃げ惑う僕の舌を追い掛けながら、濡れそぼつそれが、咥内を激しく掻き乱していく。 肌を撫でる指先。 重なる温もり。熱い吐息。 両足を割り開かれ、弛緩されたそこに熱芯が押し込まれれば……憂いを帯びた悠の瞳が、僕の姿を哀しく映し出す。 「っ、双葉……、はぁ……」 「……」 何となく感じていた、違和感── 今の悠は、僕の知ってる悠じゃない。 何かに脅え、必死に縋りつき……僕を求めてる。 もし、このまま突き放したら、悠が消えてしまいそうで……… 「……、っん……はぁ、はぁ……ぅう、」 「………」 痛さと、無理矢理引き出される快感に……涙が滲んでぼやける。 悠……何があったの……? ……僕の知らない間に、一体何が…… 「──う、ぅえ″っ……!」 突然僕から退き、背を向けその場に踞る。 「………ゆ、ぅ……?」 見れば、身体を丸め、何度も嗚咽を繰り返している。 苦しそうに、上下に動く背中。悠に寄り添い、その背中をそっと擦る。 「………悪ぃ、双葉……」 少しは落ち着いたのか。ぜぃぜぃと苦しそうな呼吸を繰り返しながら、悠が声を絞り出す。 「……床、汚しちまった」 「いいよ……そんなの」 「今日は、服着てなくて良かったな」 「……ばか」 手近にあった箱ティッシュを拾い、数枚引き抜いて悠に渡す。 「……悠。この前も吐いたって、言ってたよね。 ………どこか、悪いの?」 下から悠を覗き込めば、口を拭きながら何かを隠すように、視線を逸らされる。 「わかんねぇ。けど……」 答えながらティッシュを数枚取り出し、悠が汚れた床を拭き出す。

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