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学生 戦 手紙

「……覚えてるか。高校最後の夏休み」 「……」 憶えてるよ…… 『双葉、俺のモンになって』──あの言葉に答えて、恋人同士に……なったんだよね。 「あん時、もし双葉にフラれたら……俺は潔く、父の決めた相手と一緒になるつもりだったんだ」 「……え」 悠の言葉が、重く心にのし掛かる。 あの出来事の裏に、そんな事実が隠されていたなんて…… 「だから、双葉が俺を受け入れてくれた時……凄ぇ、嬉しかった。 それで、腹括ったんだ。どんな事があっても、俺は双葉と一生一緒にいるって。 どんなに反対されようが、どんな仕打ちを受けようが……俺は、親父と徹底的に戦うってな」 「……」 悠が、僕に近付く。 ベッドに座る僕の前に跪き、小さな箱をパカッと開ける。悠の右耳にしているものと同じ、シルバーのピアス。それを、僕の前にスッと差し出す。 「双葉と一生を添い遂げる覚悟と、親父を説得する覚悟。 ……このピアスは、そう覚悟した俺を、後押ししてくれたんだよ」 『これ、片方やる。お揃いのリングだからな。……一生、大事に持ってろよ』──少し顔を赤らめた悠が、気恥ずかしそうに小さな箱を僕に手渡す。 あの言葉に、そんな意味が込められていたなんて…… 「………ごめ……ん、僕……」 「双葉。俺、ちゃんと離婚するから」 「……え」 「元々、無効なんだよ。受理されちまって、証拠なんて何も無ぇけど。 婚姻届、親父が勝手に出したんだよ。知らない間に、俺のサインを書いてな」 ──え…… 「悠……それって……」 「双葉」 切羽詰まったように見つめた後、ピアスを受け取らない僕の手に、それを押し付ける。 「……相手の女とは、手すら繋いでない。……信じて、双葉……」 「……」 「俺には、双葉だけだから。双葉しか、いねぇから。 ……今日、離婚届を、手紙と一緒に置いてきたんだ」 「……悠……」 小さく震える、瞳。 子供のように……必死に縋りついてきて…… 「捨てないでくれよ、双葉……」 背中を丸め、僕にしがみつき、胸元に顔を埋める。 「……」 そんな悠の髪にそっと触れ、宥めるように撫でた。 「……悠。この一年の間、奥さんと一緒になる努力を、してきたの……?」 「いや。俺はずっと、隔離病棟に入院させられてたから……」 「──え、隔離病棟に……?」 「うん。……男が男を好きになるなんて、病気だ!……って。親父にな……」 「……そんな、悠……」 「双葉……」 すっかり暗くなった部屋の中── 僕と悠の声が止むと、布の擦れる音が部屋に響いた。

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