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中華料理4
竜蛇と志狼が部屋を出ていってから20分以上経つ。二人は中々戻ってこなかった。
「ふたりとも遅いなぁ」
鉄平が焦れたように呟いたので、犬塚は「まだ腹が減っているのか?」と、聞いた。
「いえっ……あの、デザート食べたくて……」
鉄平はもじもじと赤くなった。静かに紹興酒を呑む犬塚を見て、自分は子供っぽいと照れくさくなったのだ。
「勝手に頼んだらいいだろ」
犬塚はメニューを開いて、鉄平と一緒に見た。デザートも種類が多く、どれもこれも美味そうだった。
「迷うなぁ。あ、犬塚さんは甘いもの好きですか?」
「……あ、ああ」
犬塚が気まずそうに答えたが、鉄平は嬉しそうに笑った。
「ほんと? よかったぁ。しろうも竜蛇さんもお酒の方が好きだから。前に来た時は俺だけデザート食べたんです。何種類か頼んで、シェアしませんか?」
「えっ?」
「えっ? いやですか?」
鉄平がちょっと不安げに犬塚を見た。
犬塚は鉄平のしょげた顔に自分は弱いのだと感じた。
「……いいよ」
「よかったぁ」
しょげた顔が一転して、今度は花のように笑った。こどもみたいな笑顔だ。
打算も下心もないその笑顔に犬塚は戸惑いながらもほっとしてしまう。
鉄平と話していると調子が狂う。だが、なぜ竜蛇が鉄平を気に入っているのかが分かった。
「じゃあ、これとこれとこれ。犬塚さんはどれ食べたいですか?」
「……そうだな、俺は……」
ふたりは頭を寄せ合って、メニューを見てデザートを選んだ。
注文したデザートがテーブルに並べられ、鉄平のテンションが高くなる。
「わぁ! 美味しそう」
黒ごま団子・ココナッツ団子・エッグタルト・杏仁豆腐・タピオカミルクティー・マンゴープリン……結局、二人はデザートを一通り注文したのだ。
「いただきます」
鉄平は黒ゴマ団子をバクッと食べたが……
「熱っ!!」
揚げたてで、まだ熱々だった。
鉄平は思わず大きな声を出してしまった。見た目通りの猫舌なのだ。
「タマ! これを飲め」
犬塚は慌てて冷たいウーロン茶を鉄平に飲ませる。
「……ほれっ……アツアツで、おいひぃいれす」
「おい、火傷してないか?」
「……んっ。だいじょぶです」
ウーロン茶を飲んで、鉄平はゴマ団子をどうにか飲み込んだ。ハフハフしながら食レポをする鉄平に、犬塚は呆れたように笑った。
「落ち着いて食べろ。ほら、一口じゃなく、半分ずつ食べろ」
犬塚は箸でゴマ団子を半分に割った。
「それか先にマンゴープリンを食えばいい」
甲斐甲斐しく鉄平の世話を焼く犬塚に、鉄平がえへへと笑った。
「犬塚さん、優しいね。それに今日、初めて笑ったぁ」
「なっ……!?」
犬塚は鉄平の言葉に少し赤くなってしまう。
そんなことを言われたのは初めてだからだ。
「竜蛇さん、優しい人と恋人になれて良かった」
「よっ、余計なことを言うな」
犬塚は鉄平のおでこをぺちっと軽く叩いた。
「わっ。ほんとだ。犬塚さん、ツンデレだぁ」
「うるさい!」
すっかり鉄平のペースだった。
だが、犬塚はそれが嫌ではなかった。
「ほら。さっさと食え。俺が全部食べてしまっていいのか?」
「あっ。ダメです」
鉄平は慌てて、マンゴープリンをスプーンに掬って頬張った。
二人がデザートに舌鼓を打っているところに、
「遅くなって悪い」
「おまたせ。犬塚」
ほぼ同時に竜蛇と志狼が戻ってきた。
「おかえり。しろう」
「別に戻ってこなくていいのに」
「……」
「……」
鉄平と犬塚は少し椅子を寄せ合い、仲良くデザートをつついていた。
「あ。タピオカ美味しいよ。犬塚さん」
「そうか。ゴマ団子冷めてるぞ」
「うん」
いつのまにやら、鉄平と犬塚は距離が縮まったようだ。竜蛇達を無視して、うまそうにデザートを食べている。
竜蛇と志狼は、鉄平達とは反対側に椅子を寄せ合い、紹興酒を呑んだ。
竜蛇も志狼も、いつもなら恋人が自分以外の男に懐くなど許せないのだが、鉄平と犬塚のふたりの様子は微笑ましかった。
───黒い柴犬が子猫の世話を焼いているみたいだ。
「……なんだか、こうゆうのもいいね」
「そうだな。可愛いなぁ、タマは」
「犬塚も可愛い」
「まぁ……そうだな。どっちも可愛いわ」
志狼が顎をさすりながら呟いた。
「志狼」
「なんだ」
「いつか、4Pしようか?」
竜蛇が優美な笑みを浮かべて志狼を誘った。
「ああ。いいぜ」
志狼はニヤリと男らしい笑みで応えた。
そんなやり取りがされているなどつゆ知らず。
犬塚と鉄平は和気あいあいと、美味しいデザートを仲良く食べたのだった。
おしまい。
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