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第1話

まだ肌寒い春の海辺 誠と共に歩んでいくと決めたあの日から…… 気付けば初夏を迎えていた 「…双葉」 食事を終え、キッチンの洗い物をした後、誠が僕の名を呼んだ 見れば二人がけのソファに座った誠が、隣を軽く叩いた 「……!」 それは隣に、という意味だと直ぐに気付いたが 畏まってイチャイチャするのかと思うと、何だか恥ずかしい… 誠の顔を見れば、涼しげな表情を浮かべてはいるものの よく見れば、耳朶が少し赤くなっていた その瞬間、つられて僕の顔も熱くなる ただ隣に座る、というだけなのに 僕は未だに緊張してしまっていた 「………」 誠の部屋に来たのは、今回が初めてじゃない 初めて訪れた時は、ほんの少し寄った位で、二回目は一緒にDVDの映画を観ただけだった そして今回は、誠が手料理のパスタを振る舞ってくれるというので、バイト終わりにここに来たのだ チラリ、と隣に座る誠を見上げる と、僕の視線を感じたのか誠もこちらに視線を寄越した 視線が絡まると 途端に二人の間に流れる空気が変わる こうなってしまうと、もう 寛いでテレビなど見れそうになかった 「……」 耐え切れず視線を逸らす と、誠の手が伸び僕の前髪に触れた そして優しく掻き上げられ、額が露になる 僕は再び誠を見上げた 大きな二重の瞳 面長の顔にスッと通った鼻筋 その端整な顔立ちに心惹かれ 釘付けとなってしまう… 「……!」 誠の顔が近付くのを感じ、軽く目を閉じる と、額に熱があてられた そして直ぐに離れ、その熱が唇へと移動する 「……ん、」 柔らかくて、優しくて…… ふわりと誠の匂いが鼻を擽る 軽く触れただけ なのに 全身に血液が巡り 体を熱くさせ 脳まで沸騰する ……誠さ…… 緊張で手指が痺れる ……もしかして このまま…… 「………」 しかし、僕の予想に反して 唇が離された後 誠の温もりも一緒に離れてしまった……

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