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第92話
溢れ出てしまった気持ちは
もう元には戻せない……
「……双葉」
悠の瞳がゆっくりと開かれる
「幻じゃ、ねー…んだな」
「……僕も、今、同じ事…思ってた…」
そう答えると、悠の口元が緩む
どちらともなく顔を寄せ、瞼を三日月程薄く閉じると、唇を重ねた
その温もりを確かめる様に何度も貪り、絡め、次第に深くなる……
やがて互いの指が触れ、交差させると、そのまま握り合わせる
ゲーセンで繋いだ時の様に、手のひらが熱くなり湿気を帯びる
昨日あんなに求め合ったと言うのに、まだ足りないとばかりに密着させる体、下肢……
「……ん」
やがて解された悠の指先が、僕の胸にある小さな蕾を捕らえる
「…やっ、」
体が跳ね、背中を丸めて悠から少し身を離す
そうしながらも内腿を擦り合わせ、身を捩ってしまう…
「…や、なのかよ」
「いや、…じゃない…から……」
少しだけ拗ねた悠に、困惑しながら答える
「なら、いいじゃん」
そう言って八重歯を見せた悠が、僕の体を抱き寄せる
「………いいのかな」
「ったりめーだろ」
「……」
ふと背後から、じわじわと罪悪感が押し寄せる
まるでフリーザーに入れられたように、徐々に冷え固まっていく心
…誠さんにプロポーズされた夜に
不貞行為をしてしまうなんて……
「…どした?双葉」
「………悠と、ずっと一緒にいたい……けど……」
悠の温もりを感じているのに、体もどんどん冷えていく……
「双葉」
耳元で悠が囁く
悠の腕に力が籠もり、息が出来なくなる程強く抱き締められる
「……もう離れんなよ、何があっても」
その言葉に触発され、愛しさが込み上げる
「……うん」
それが、不安に駆られ凍り付きそうな僕の心を、再びゆっくりと溶かしてゆく……
我が物顔で青空を君臨する太陽
もくもくとソフトクリームの様に巻き上がる雲
露出した肌に当たる直線的な陽射しが痛い
シャワーを浴び、簡単な朝食を摂ると、もうすっかり外出するには危険な時間帯となっていた
それでも僕達は、玄関を出るとしっかりその手を繋ぐ
……もう絶対、この手を離さない……
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