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第91話

悠の手が、肌に張り付いた僕の横髪をそっと剥がし上げる そして、その手が僕の頬を包み、愛おしむ様に親指が目の下を撫でる 「……汗だくになっちまったな」 悠の言葉が、夢心地だった僕の目をぱちんと覚ます 「何か飲むか…?」 僕から手を離し、離れようとする体を掴み、引き留める 「……もう少し、このまま」 「んな事いってると、次始まるぜ」 悠の冗談めいた発言に、いつもの僕なら「…ばか」と言って悠から離れたかもしれない…… ……でも、今は…… 「…うん、いいよ…して……、悠」 擦り付いて悠の匂いに包まれる 「双葉…」 「もっと悠を感じたい……離れたくない」 もっと悠に触れていたい もし幻なら まだ消えないで…… 少し困惑した悠は、懇願する僕の背中に再び腕を回す 「…離れねぇし、離さねぇよ」 悠の指が、僕の背中、脇腹と掠める様に触れる ……そして… 「双葉、ちゃんと飯…食えよ」 洗濯板の様にごつごつと浮き出た肋骨 その溝を、悠の指がなぞる 「………うん」 答えながら目を瞑る 瞼の裏にはまだ、真っ白な世界が残っている ザザザザザ…ザザザザザ…… 潮の匂い ……そして、心地良い感触… 窓から差し込む光 朝一番の、鳥の円舞曲 ハッ、と目が覚め隣を見る シングルベッドに二人は狭く、だけどこの窮屈さが、今は愛しい…… まだ少し幼さが残る顔立ちを、やんちゃな雰囲気がそれをカバーしている キリッとした眉毛に、少し上がった目尻…… 耳にはかつて、僕にプロポーズの言葉と共に渡してくれた、お揃いのシルバーピアス 一見不良っぽくて怖がられる悠だけど 本当は一途で、優しくて 引っ張っていってくれる……   ……高校最後の夏休み あの日、悠から突然の告白を受け強引にキスをされた時 和兄が言うように、僕は圧されて流されてしまったのかもしれない …でも、好きだから…… 悠が好きだから… 明るい茶髪にそっと触れ、指に絡ませ梳かす

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