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第14話

「それじゃ、用は済んだから帰るね。おやすみ」  踵を返して帰ろうとした僕の背中に、いきなり手がかけられた。 「わっ!」 「龍、お願い、これが最後だから!」  門扉の上から伸ばされた腕。僕らの間に物理的な距離があるので、玲司がこれ以上僕に近づけないことがわかる。安全なことが確保されているだけに、話くらい聞いてやろうと思った。 「お願いってなに?」 「もう変なことはしない。だからこれまでどおり、普通に接してほしいんだ」  必死な顔で食らいつく怜司に、冷たさを感じさせる口調で告げてやる。 「放課後僕にあんなことしておいて、それを信じられると思えるのか?」  僕の背中を掴む手に視線を注ぐために振り返ると、怜司は慌ててその手を外した。 「龍が好きすぎて、触れていたいだけなんだよ」 「僕にとってそれが、すっごく迷惑なんだってば!」 「だからもうしない。これ以上嫌われたくないし……」  見ているのがつらくなるくらいに落ちこむ怜司の姿に、顔を背けて訊ねてみる。 「本当にもうしない?」 「しない。絶対にしないからさ、今までみたいに喋ってくれよ」 「わかった、約束破るなよ」  言いながら顔を怜司に向けて、しっかり念を押した。 「龍あのさ、聞いていい?」  帰りかける足をとめる怜司の質問に、ちょっとだけイラっとしながら返事をする。 「なにを?」 「龍って、同じクラスの白岡のことが好きだったりする?」  同じクラスの白岡さんは女子で、クラスの中では割と大人しめのコだった。 「別に好きじゃないけど」 「なんとなくだけど、白岡のことを見てる気がしたんだ。好みのタイプかと思ったりしたんだけどさ」 「周りがよく話題にするから、一緒になって彼女を見てるのかも」  年頃の男子が話題に出す――つまり白岡さんは女子の中で、一番胸が大きかった。 「龍の好みじゃないんだな?」 「そういう色恋してる余裕は、今の俺にない。志望校に行くために、偏差値をあげるのに必死なんだから」 「兄貴が通ってるトコ?」 「うん。浩司兄ちゃんから学校の話を直接聞いたりしたのもあって、通ってみたいなと思ったんだよ。ちなみに怜司の志望校はどこ? バスケの強豪校とか?」  てっきりもう決まってるものだと思って聞いてみたのに、怜司はどこかやるせなさそうな面持ちをする。 「いろいろ考えることがあって迷い中。バスケの強い学校はあちこちにあるからさ」 「怜司は頭がいいから、どこにでも行けちゃうもんな。羨ましい」 「龍も勉強頑張って、兄貴の学校に通えるといいな」  その後、怜司が有言実行してくれたおかげで、僕に手を出すことなく、普通の友人として接してくれた。浩司兄ちゃんも怜司と同じく、幼なじみとして僕に接してくれたので、中学を無事に卒業することができたのだった。

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