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第17話

「玲司が駆けつけてくれたから、なにもされなかったよ」 「誤魔化すなって。おまえ、アイツに胸倉掴まれてたろ。もしかして上級生相手に、喧嘩を売ったのか?」  怜司は不思議そうな表情で、わざわざ腰を曲げながら僕の顔を覗き込む。 「僕がそんなことする人種じゃないことくらい、わかってるクセに」 「じゃあなんで?」  納得いかないみたいといったなまなざしを玲司から注がれても、僕は実際なにもしていないのは事実。 「浩司兄ちゃんの名前を言ったことが、気に障ったみたいだよ」 「はあ? たったそれだけで、あのバカはキレたのかよ。心底飽きれた」  飽きれたと言ったタイミングで、掴まれてる手が放された。玲司らしい熱いぬくもりから解放された手が外気に晒されて、ちょっとだけ冷たくなる。 「玲司ありがとう。本当に助かった……」  その冷たさをなんとかすべく、スラックスのポケットに片手を突っ込む。 「教室の扉から緑色の制服が見えて、そのあとに従うように龍がついて行くのが見えたからさ。なにかあったらと思って、慌ててあとをつけたわけ」 「そうだったんだ。よく見てたね」  僕に近づいていた怜司の顔が、音もなく遠のいていく。 「龍本人が思ってるより、結構モテることを意識してほしいんだけどさ」 「僕が?」  中学時代、一度も告白されたらことのない僕をモテるなんて言うこと自体、おかしな話である。  告げられたセリフに疑問を感じ、首を傾げた僕に、玲司は渋い表情で説明しはじめる。 「誠実さを表すような龍の身なりや、物腰の柔らかさは、大変受けがよかったみたいで、クラスの女子から仲を取り持つように、実は結構頼まれたけど、思いっきりスルーさせてもらった」 「僕の身なり? よくわからない」  何度も目を瞬かせる僕がおかしかったのか、玲司がくすくす笑う。 「そういうとこが、龍のいいところなんだって。だから俺は好きなんだよ」  僕の視線から逃げるように、ぷいっと顔を背けるなり、教室に戻る玲司。彼の気持ちを知っていながら断ってる僕としては、声をかけづらかった。  このことに困り果てた結果、玲司の姿が見えなくなるまで、その場に立ちつくしてしまったのだった。

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