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第18話
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玲司は自室の隣にある部屋の扉を、無造作に大きく開け放った。視線の先には椅子に座って勉強に励む、兄の背中が目に映る。
「玲司、部屋に入るときには、ノックぐらいしろよ」
扉を開けた人物が弟だと瞬時に悟り、浩司は振り返らずに注意を促した。
「腹の立つことがあったんだ。聞いてほしくて」
「それは、勉強の手を止めるようなことなのか?」
浩司はため息をつきながら、椅子を回転させて振り返る。顔をきちんと突合せるべく扉を締めながら部屋の中に入り、怒りを抑えた声で玲司は口を開いた。
「今日学校で、誰かさんのセフレが龍を呼びつけて、どこかに連れ去ろうとした」
玲司が垣間見た様子を浩司に教えた途端に、目の前にある顔が驚きに満ち溢れる。
「……マジかよ、今日は入学式があったろ。そんなタイミングで馬鹿なことをするヤツは、どこのどいつだ?」
「どこのどいつだと聞かれても、兄貴のセフレなんて、そんなのいちいち知ってるわけがないだろ」
苛立ちを表すように声を荒らげた玲司を見、浩司は椅子から立ち上がる。
「龍は無事だったんだな?」
訊ねながら自分の前に立ちはだかった浩司を、玲司は視線だけで見上げた。
「俺が急いで駆けつけたし、無事なのは当然だ」
「玲司もしかして、こうなることがわかったから、ウチの学校を受験したのか?」
「だったらなに?」
「いや、別に」
玲司から突き刺すようなまなざしを受けて、浩司は思わず顔を俯かせる。
「兄貴のセフレが何人いるか知らないけど、躾くらいちゃんとしとけよ。龍が危険な目に遭っていいのか?」
「こんなことになるとは思わなかった」
自室の床を見ながら気だるげに答えた浩司に、玲司からの口撃は続く。
「セフレだろうが、相手にはちゃんと感情があるんだよ。兄貴とそういうコトをしているうちに、好意が芽生える可能性だってあるだろ」
「俺は最初から、好きな奴がほかにいるって言ってあるんだけど」
「言ってるから、龍が狙われたんじゃねぇの?」
「……………」
浩司は黙ったまま顔を上げて、目の前にいる玲司を見た。相変わらず苛立つ態度を崩さずに、兄を見据える。
「兄貴がセフレと仲良くするのもいいけど、これからはほどほどにしとけよな。同じ校内で、龍の目もあるんだし」
「タイミングとしてはいい潮時か。セフレとは手を切る」
「はっ、すんなり別れられるのやら!」
「別れるさ、龍のために」
「なんだよ、それ……」
覇気のないセリフを聞き、玲司がバカにするように笑ったら、浩司は真顔のまま低い声で告げる。
「俺にストッパーがいなくなる。その意味わかるだろ?」
「ストッパーがいなくなる――」
声にならない声で兄の言葉を反芻した玲司が、顔を歪ませて訊ねた。
「やるのかよ?」
「おまえはどうなんだ?」
「俺は――」
玲司は浩司に質問を質問で返されて、思わず言葉に詰まった。心の中を兄に見透かされそうな気がして、首をもたげながら顔を俯かせる。表情を見せないように施した怜司に、浩司は淡々と語りかけた。
「中二のとき玲司の部屋で龍を襲って、アイツの良さを知ったのに、よく抑えられたな。感心する」
「だってあれ以上、龍に嫌われたくなかったし」
両手の拳をぎゅっと握りしめながら口にすると、浩司はカラカラ笑う。
「龍も俺らに与えられた快感を求めずに、よく我慢したもんだと思ってさ」
「だって、あのとき限りだろ」
「あのとき限りとはいえ、散々龍をイカせまくっただろ。俺らが達するときには、潮吹きしてたくらいに」
「まあな……」
「龍に我慢できなかったら性処理してやると、さりげなく誘ってみたのに、あっさり断られた」
信じられないセリフに、玲司はもたげていた頭を上げて、浩司をキツく睨んだ。
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