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第19話

「はあ? 兄貴が龍を誘ったなんて、そんなの初耳ですけど!」  目を釣りあげて怒った玲司に、両手を見せて宥めに入る浩司。 「まあまあ、そんなに怒るな。冷たく龍にあしらわれたことを、わざわざおまえに言うかよ。格好悪い」 「抜けがけしやがって」  不機嫌を極めた玲司は、浩司のてのひらに軽くグーパンした。 「先に抜けがけしたのはおまえだろ、玲司」 「悪かったって。学校で襲ってからは、龍になにもしてない」 「それは俺もだ。しかしここからが問題だぞ。どうやって親の目を盗み、龍に手を出すか――」  このタイミングで、おもしろいくらいに兄弟の息がピッタリ合った。瞳を細めてほほ笑む浩司を見ながら、玲司もにっこり笑って訊ねる。 「一度俺らの手で快感を与えてるから、感度のいい龍なら流されることはわかる。そうだろ?」 「ああ、龍を感じさせてしまえば、こっちのものだ」  浩司は数年前のコトを思い出し、ごくりと生唾を飲んだ。 「兄貴、あれ以来ふたりきりにならないように、龍が気をつけていることも問題じゃね?」  互いに障害になっていることを口にし、顎に手を当てたり、胸の前で腕を組んで考え込む。 「玲司はウチまで、龍を引っ張って来ることができるか?」 「玄関がギリかな。龍の自宅なら、親の目が届くリビングに通される」 「玄関でも充分だ。入ってしまえば、どうにでもなる」 「兄貴?」  玲司が不思議顔でキョトンとしたら、浩司は身をひるがえして自分のデスクの引出しに手をかけ、錠剤をワンシート取り出して、見せつけるように掲げた。 「これ、母さんが常用してる睡眠導入剤をこっそりくすねた」  薬を見たことで今後の流れを予測した玲司は、すぐさま返答する。 「それを龍に飲ませるんだな?」 「ああ。一錠だと強すぎるだろうから、半分に割って飲み物に入れようと思う。龍はコーヒー飲めたか?」  浩司に訊ねられたことで、怜司は龍が普段口にしている飲み物を思い出す。 「甘い感じにしたら飲めるんじゃないかな。缶コーヒーはブラックを飲んでるのを見たことがない」  怜司のセリフを聞きながら、浩司は相槌を打つように何度も首を縦に振って、「じゃあ甘いカフェオレでも作ってやろう」と呟いた。 「兄貴、ゴールデンウィークに両家の親そろって、温泉でも行かせたらいいんじゃね?」  閃いたと言わんばかりに、怜司は瞳を輝かせながら提案した。自宅から互いの両親を離れさせることができる妙案に、浩司は思考を巡らせつつそれを聞かせた。 「俺らはガッツリ宿題出されるから、休み中はそれどころじゃないと言って、いいわけはできるな」  先輩として学校のことがわかっている浩司のひとことに、怜司は無駄にはしゃいでしまう。 「1泊2日……いや2泊3日くらい息子たちを置いて、両親には羽を伸ばしてもらおうぜ」 「だったら俺が親を説得してやる。玲司は安くてよさげな温泉宿を見繕ってくれ」 「了解。ああ、すげえ楽しみ! あれからずっと我慢しっぱなしだったからさ」  テンションの高い怜司を見、浩司は唇に人差し指をあてて、静かにするように促した。 「玲司は龍しか知らないから、ほかのヤツと比べようがないだろうが、龍の柔らかい肌質や感度は絶品なんだ」 「好きな相手だから、そう感じるんじゃないのか?」 「まあな。だけど本当にどこをとっても、龍の躰は比べ物にならないくらい、いいものだぞ」 「わかってるよ、そんなこと。ちなみに最後までヤるんだろ?」  静かにするようにジェスチャーされたので、怜司はより一層声を抑えて浩司に訊ねた。 「そのために事前に足枷つきの首輪を買ってある。今回は使うつもりさ」  浩司がベッドの下に隠されているその場所を見つめると、怜司は背中を向けて部屋を出る。 「兄貴、とりあえず温泉宿をピックアップしたら、一応目を通してくれ。よければそれをもとに、親父たちの説得よろしくな!」  声を普通のボリュームに戻し、部屋を出て行く背中を浩司は黙って見送った。静かに閉じられる扉を見ながら、今後の計画を頭の中でより詳しく企てる。龍を確実に手に入れるために――。

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