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第27話
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ゴールデンウィークまであと2日に迫ったある日の平日、3時限目に体育の授業があり、教室でTシャツとジャージに着替えてから、体育館に向かった。
「あ、タオル忘れちゃったな。仕方ない、取りに行くか」
地味に汗かきなので、タオルは必需品だった。忘れ物に気づいたのが、教室と体育館の中間地点だったこともあり、大急ぎで走って教室に引き返す。クラスメートのほとんどが体育館に到着しているらしく、誰ともすれ違うことはなかった。
「あーあ、体育の授業前に走ることになるなんて、ホント最悪……」
ぶつくさ言いながら教室の扉を勢いよく開けたら、中にいる人物と思いっきり目が合う。
「怜司?」
窓際に近い僕の席になぜか怜司が立っていて、僕に見えないように、なにかを背中に隠した。
「龍?」
「僕の席で、いったいなにをしていたんだ? 隠してるものを出せって」
そう言ったものの、怜司が手にしているものはすぐにわかった。机の上にたたまれているはずの僕の制服が、なだれるように崩れているせいで――。
「……これ」
怒りに満ちた僕の睨みがきいたのか、怜司は背中に隠していたものを、恐るおそる目の前に移動させる。
「僕のワイシャツで、いったいなにしてたんだよ?」
以前、僕の服を強請ったことのある怜司。僕に手を出さないようにするために欲しいと言われたこともあり、自身を守るために提供した経緯があるけれど。
「ごめん、その……龍の匂いを嗅いでた」
「呆れた。こんなところをクラスメートに見つかったら、ヤバかったんじゃないのか?」
背後を気にしつつ扉を閉めて、自分の席に近づく。
「龍から貰ったTシャツ、もうあまり匂いがしなくなってさ」
「そりゃあそうだよ。あれをあげてから、随分経ってるし」
胸の前に腕を組んで怜司を見上げたら、ワイシャツが差し出された。返してくれると思い、それに手をかけたのに、なぜか怜司は手放さない。
「怜司、返してくれないと困るんだけど」
「俺も困ってる。龍にキスしたくて堪らない」
「なに言ってるんだよ。ダメに決まってるだろ」
言いながらワイシャツを奪取するために引っ張っても、怜司の手は相変わらずだった。
「怜司!」
「この手を放したら、龍を抱き寄せてキスするかもしれない」
「なんの脅しだよ、それは」
「脅しじゃなくて警告。だってふたりきりでいるんだぞ。絶好のチャンスじゃないか」
モノ欲しげな瞳で見つめられたせいで、距離をとるしかなかった。仕方なくワイシャツから手を放し、数歩ほど後退る。
「怜司、頼むからワイシャツを返して。帰ったら代わりになる服をポストに入れておくから、それで手を打ってくれ」
僕からの提案を聞いた瞬間、怜司は持っていたワイシャツを机の上に放り投げ、目に涙を浮かべながら鼻をすする。
(おいおい、服をあげることくらいで、どんだけ感動してるんだよ……)
内心ドン引きしながら、その場に怜司が固まってるのを確認したので、遠回りつつ自分のロッカーに移動。素早くタオルを手にしたあと、逃げるように教室を出かけたときだった。
「龍、ありがとな!」
「早く来ないと遅れるぞ」
嗚咽まじりのお礼にさりげなく注意を促して、急いで体育館に向かったのだった。
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