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第61話

***  怜司に浩司兄ちゃんとの付き合いを認めてもらってから、一か月が経った。怜司が時折フォローしてくれるおかげで、浩司兄ちゃんと逢いやすくなったのはラッキーだと言える。  兄貴には似合わないと、最初は反対されると思っていたのに、なんだか肩透かしを食らった気分。こんなことなら躊躇せずに、打ち明ければよかったと後悔した。 (――そういえば浩司兄ちゃんから、LINEの返事が着てないな)  ひととおり授業が終わり、一緒に帰ろうと浩司兄ちゃんに連絡をとったものの、既読スルーされている。受験生だから、いろいろと忙しいのかもしれないな。  自分の下駄箱の前でスマホの画面を見ながら、『先に帰るね』と打ち込みかけたときだった。 「安藤くん……だよね?」  横から声を掛けられて、反射的に振り向く。知らない3年生がそこにいて、僕を見下ろしていた。 「はい、そうですけど」 「藤島に頼まれたんだ。一緒に帰りたいけど、先生に用事を頼まれたから、音楽室で少しだけ待っていてだって」  見知らぬ3年生は早口で言うなり、僕の腕を掴んで校舎へと引っ張って行く。 「あっあの、大丈夫です。ひとりで行けますから」  慌てて声をかけたのに、見知らぬ3年生は手を放すことをせずに、無言で音楽室に向かう。 「すみませんっ、手を放してください。逃げたりしません」  掴まれた腕を引きながら告げて、ようやく解放された。 「ごめんごめん。安藤くんが、どこかに行きそうな顔をしていたものだから。藤島に頼まれた手前、責任感をもって案内しなきゃと、つい必死になってしまった」 「あの浩司兄ちゃ…じゃなかった藤島先輩の用事って、すぐに終わるものなんでしょうか?」  先生の用事と音楽室がどうにもつながらないせいで、思わず訊ねてしまった。 「俺に呼び出しを頼んで、すっ飛んで行ったからね。もしかしたら先に、音楽室で待っているかもしれないよ」  そのセリフで、足が自然と前に進む。急いでいたからLINEの返事がなかったことがわかり、口元に笑みが浮かんだ。 「安藤くんと藤島、どっちが早く音楽室に到着するかな?」  急ぎ足で向かう隣で、見知らぬ3年生はカラカラ笑いながら告げる。いい雰囲気に導かれるように音楽室に着き、勢いよく扉を開けたら、背後にいた見知らぬ3年生に背中を強く押された。 「わっ!」  転ばないように足を強張らせながら中に入ると扉が閉まり、鍵のかけられる音が耳に聞こえた。

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