74 / 131
第74話 集中出来ない
いよいよ本編が始まった。
長閑な景色の中を主人公の女の子が出てきて、家に帰るとベッドに母親が寝ている。
病気がちな母親を献身的に介護する彼女に父親が仔犬を拾ったと言って連れてくる。
女の子が仔犬を抱き上げて微笑む。
仔犬がクゥーンと鳴きながら見上げる。
そんな仔犬の可愛さに悶えてしまう。
「か、カワイイ!!」
僕が思わず身を乗り出す。
「どっちがだ?!」
突然おじさんが顔を近づけてきた。
「?!」
「犬か女の子か、どっち?」
その顔…怖いんですけど…。
「…犬だけど?」
そう言うと、おじさんは「なら、いい」とソファへ座り直す。
何がいいんだろ?
それから映画が進み、仔犬と女の子が楽しそうに日常を過ごしていく。
『くすぐったいよ、ルーク~!』
女の子が仔犬に顔を舐められて、嬉しそうに笑っていた。
僕も女の子みたいに、犬とあんなふうに過ごしてみたいなぁ。
「いいなぁ~犬」
僕がポツリと呟いたのを聞き逃さなかったおじさんが、再び顔を向けてくる。
「結斗。あの犬になりたいのか?あの女の子が好みなのか?!」
「は、はぁっ?何でそうなるの~っ」
おじさんは何処かイライラしているようで、眉間に皺が。
「犬がカワイイから、良いなぁ~って思ったの!僕、犬が大好きだから飼いたいなぁって…」
昔から犬が大好きで飼いたかったんだけど、許して貰えなかった。
両親が忙しくて、よく海里おじさんの家にお世話になることが多かったから、仕方がないんだよね。
朝と夕方は散歩にも行かなくちゃいけないし、なかなか難しい。
だから将来は、犬と一緒に暮らしたい。
それが僕の夢なんだ。
「…そうか。結斗は動物好きだもんな」
おじさんが微笑む。
「犬と鳥が昔から好きで、テレビやペットショップとかでも釘付けだったな」
思い出したように頷く。
「何だか変な勘違いしてるみたいだけど…もうっ」
「すまん。結斗も男子高校生だからな。やっぱり女の子がいいのかと思って」
「…心配しないで、おじさん」
そりゃぁ、僕も男子高校生だからカワイイ女の子を見たらカワイイと思うしドキッとさせられる事もある。
ううん、違うな。
あった、だ。
今は、違う。
他の人より恋愛ごとに疎くて、特に誰かを好きになった事もない。
だから女の子に対して特別な感情を抱いた経験が無い。
「僕…おじさんの事で頭がいっぱいなんだもん」
「結斗…」
おじさんが微笑む。
「あ…」
僕はおじさんに顎を捕らえられ、唇が軽く啄まれた。
ともだちにシェアしよう!