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第73話 本編前
僕の話を聞いたおじさんは、明らかに怒りのオーラをメラメラと燃えたぎらせていた。
眉間に皺を寄せて、目付きも鋭く、口元も震えている様に見えた。
「そのオッサンの顔、見たか?」
「ううん。怖かったし…」
首を左右に振り見ていないことを伝えると、舌打ちが聞こえた。
「ご、ごめんなさい…」
「あぁ、結斗に怒ってる訳じゃないからね」
僕が謝ると慌てておじさんが優しいし声で話してきた。
「怖かったな結斗。俺が着いていっていれば、そんな思いしなくて良かったのに…」
おじさんが眉を垂らして切な気に呟いた。
おじさんのせいなんかじゃないのに。
「たまたま変な人が居ただけだよ。もう大丈夫!心配かけてごめんなさい」
これ以上話を続けてせっかくの楽しいデートを台無しにしたくなかった。
第一に実際手を出された訳じゃないし、次からは気をつければ良いことだし。
「おじさん、もうその話はやめよう!映画楽しんで忘れるから、ね?!」
敢えて明るく言った僕に、おじさんが苦笑した。
きっと言いたい事を分かってくれたんだと思う。
「あぁ。デート楽しもう」
チュッ
「~っ!」
おじさんが唇に軽くキスした。
透きあればキスしてくる、この素早さには驚くよ。
まったくもう…。
恥ずかしくて周囲を見すと、隣のシートに座っていたふたりが驚いた顔でこっちを見てた。
は、恥ずかしい!!
僕は顔を前に向けて誤魔化す為に、そ知らぬ顔でお茶を飲んだ。
「お。始まるよ」
チューチューお茶をストローから喉へと流し込んでいた僕は、おじさんの言葉を聞いて、漸くスクリーンへと視線を向けた。
本編前のCMが終わり、待ちに待った映画が始まるみたい。
「本当だ」
飲んでいたお茶のカップを置いて、映画を観る態勢になる。
「!!」
座り直した僕の手に、おじさんの大きな手が重なり驚いた。
おじさんを見ても笑みを浮かべて前を見たままだった。
嬉しい…。
それからそっ…と、優しく握り込まれた。
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