1 / 33
第1話 危険な罠
×××
「わー、凄い行列!」
夏生の腕に絡み付いた那月が、店の入口から並ぶ長蛇の列に驚愕する。
さすが、雑誌やテレビ等で話題のパンケーキ店。心なしか、並んでいる人々の様相からも都会の風を感じる。
「……って、これ並ぶのかよ」
「いいじゃーん☆ せっかくここまで来たんだから。……ねー、モエモエ?」
「えっ、」
振り返った那月が、背後にいる背の低い女子──荒川萌に笑顔で同意を求める。
「………あ、うん……」
消え入りそうな声で答えながら、困ったように俯く。
ふわりと天然がかった細い髪。リボンとフリルの付いたフェミニンな服。鞄に付いたクマのぬいぐるみ。サバサバした那月には珍しいタイプの友達だと思った。
春休み明け──廊下に貼り出されたクラス表を確認すると、竜一とは別々に。
幸い、友達の多い夏生 とは同じクラスで。引っ込み思案の僕をその輪の中に引き込んでくれたから、ひとりぼっちにはならずに済んだけど。
ふとした瞬間に感じる、竜一のいない淋しさ。半月を過ぎても、まだ慣れそうに無かった。
「なぁ。今度のゴールデンウィーク、どっか出掛けようぜ」
放課後。帰り支度をする僕に近付いてきた夏生が、唐突にそんな事を言う。
「……え」
「なら、東京行かない?!」
それに戸惑っていると、ベランダ伝いにやってきた那月が突然現れ、その話題にグイグイ割り込む。
「実はさ、萌──あ、最近仲良くなったカワイコちゃんなんだけどねっ。そのモエモエのお姉さんが、同じホテルのペアチケット二枚も当たったんだって! 凄くない?!」
「……は?! 二枚?!」
那月の勢いさながら、その内容に夏生が驚く。
「んー、よく解んないんだけどね。そういうガチャ?に、旦那さんと並んでやったらしくて……」
「あっ、それ知ってる。旅行会社が企画した、数量限定のガチャだよね?」
二人の会話につい口を挟んでしまい、慌てて笑顔を取り繕う。
「──そう! 多分ソレ!」
立てた人差し指を僕に向けた那月が、目を輝かせながら答える。
「でね。訳あって行けなくなっちゃったらしくて。困ってるって言うから、折角だし……行こうよぉ!!」
嬉々とした表情から一変。甘えつくような声を発した那月が、夏生の両手首を掴んで左右に揺らす。
「……」
去年までの僕だったら、この光景から目を逸らすので精一杯だったけど。……今は、もう平気。
「それ、竜一も誘っていい?」
思い切って二人に話し掛ければ、少し驚いた顔をした那月が、キラキラとした笑顔を見せる。
「モチ! いいに決まってんじゃんっ!」
ともだちにシェアしよう!

