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第2話
列に並んで約一時間半。ようやく店内に案内される。
ゆっくりと回転する、木製のシーリングファン。名前も知らない観葉植物。何処か懐かしいようなアメリカン雑貨。落ち着いたBGM。パンケーキ特有の甘い香り。
「あー、腹減ってマジ死にそう」
「ちょうど良かったじゃん。もうすぐ食べられるよー」
「……いや、普通にマック食いてぇ」
萌と同じメニュー表を眺める那月が、隣に座る夏生のぼやきを適当にあしらう。その様子を覗き見た後、隣に座る竜一に顔を向ける。
「竜一も、マックの方が良かった?」
下から覗き込みながらそう囁いてみれば、僕を捉えた後、動揺したように黒い瞳が僅かに揺れる。
「………いや、」
視線を外し、ぶっきらぼうに放たれる声。よく見れば、ほんのりと頬が赤い。
……え……
もしかして竜一、甘いもの好きなの?
厳つい見た目に似合わず、少しだけ照れたその表情に、思わずきゅんっと胸が高鳴る。
パンケーキ店を出た後、街をぶらぶらしながら那月と萌のショッピングに付き合う。それから海辺沿いの公園に移動し、テイクアウトしたドリンクを飲みながらの談笑。
沈む夕陽が、いつもより綺麗に見える。
「……そういや誰だ。あの男」
少し離れた石畳に座って海を眺めていると、直ぐ傍にカップが置かれる。その手を辿って視線を上げれば、隣に腰を下ろす竜一の横顔が、何処か不満げな表情を浮かべていた。
「同じクラスの、佐倉武司くん。
なんかね、萌ちゃんが佐倉くんの事……好き、みたいで──」
「成る程な」
ぼそりと漏らした竜一が、片手を後ろに付く。そして傍らに置いたドリンクを手にすると、海を眺めながらクイッと煽る。
「……」
那月は、僕と竜一がここにいるのを多分望んでいない。そもそも、誘うつもりなんてなかったんだと思う。
この旅行の目的は、『那月と夏生』『萌と佐倉』のダブルデート。僕達の関係を知らない那月にとって、邪魔で扱いづらい存在だと思うから。
「なら今夜、さくらと二人きりになっても……構わねぇんだな」
肩がぶつかりそうになる程身体が寄せられ、耳元でボソリと囁かれる。その声は何処か甘く、期待に満ちていて……僕の鼓膜を震わせながら胸の奥を柔らかく擽る。
「……ん」
別に、期待していなかった訳じゃない。竜一と、初めての旅行で。初めてのお泊まりで。一緒にいられたらいいなって、僕も思ってた。
けど……そう望んでいただけで、余り期待はしないようにしていたのに。
「……ねー、そこの二人ぃ! そろそろホテルに行こ~よ!」
遠くから、那月の明るい声が聞こえた。
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