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第17話

──チッ、 舌打ちした竜一が、僕の上から退く。 冷たいガラス玉のような眼──そんな竜一を見るのは初めてで。ゾクッと悪寒が走る。 そんな僕に構うことなくベッドを下り、ドス黒いオーラを放ちながら勢いよく部屋を出て行く。 ………待って、竜一……! 涙をグイッと拭い、身体を起こす。不安を抱えながら竜一の後を追い掛け、廊下に出る。 視線の先に映ったのは──足早に廊下を歩いていく竜一の背中。その奥にあるエレベーターから並んで下りる、萌と佐倉。 その殺気立ったオーラに気付いたんだろう。きゃっ、と萌が小さな悲鳴を上げ後退ると、それに気付いた佐倉が此方に振り向く。 その瞬間── ──バキッ、 佐倉に近付き、振り上げた拳を勢いよく叩きつける竜一。 後方へと蹌踉ける佐倉。打たれた頬を押さえながら踏ん張り、竜一を睨む。 「……何すんだよ、いきなり」 「とぼけんじゃねぇ!」 一方的に殴られた事に抗議しながらも、何処か冷静さを保つ佐倉。それが余計に腹立たしかったんだろう。佐倉の胸ぐらを掴んで手前に引き寄せると、感情のまま何度もぶん殴る。 ──ガツッ、ガッッ、ドゴッ 鳴り響く、不穏な音。 両手で口元を押さえる萌が、大きく目を見開いたまま壁際まで後退る。 「──てめぇ、さくらに何しやがった!」 反撃も言い訳もせず、一方的に痛めつけられる佐倉。その姿に胸が痛むものの、何処か飄々としていて。竜一が顔を寄せて威嚇すれば、挑発するように佐倉の顎先が僅かに持ち上がる。 「………なにって、ナニ?」 口の片端をクッとつり上げ、乱れた長い前髪の隙間から竜一を睨む。 「もしかして、もう見ちゃった?」 そう言った唇が、不気味な弧を描く。鮮血の混じった舌先をチラリと出し、ゆっくりと上唇を舐め取りながら、立てた人差し指で自身の首筋を指す。 その瞬間──竜一の肩が上がり、握り締めていた拳が大きく震える。 突き放すように掴んでいた胸倉を離すと、間髪入れずその拳が佐倉の顔面に入る。 ──ドンッ、 壁際に逃げた萌の足元まで頭が吹っ飛び、キャアという叫び声が響き渡る。 打った頭を擡げ、後頭部に手をやる佐倉に近付く竜一。乱暴に髪を引っ掴み、佐倉の上体を起こすと、容赦なく拳が振り下ろされる。 転がる身体。辺りに血が飛び、鼻から鮮血が垂れ落ちる。 「……」 ……もう、止めて…… 叫ぼうとするのに、声が出ない。 今すぐ竜一を止めたいのに……足が竦んで動けない。

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