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第16話
……はぁ、はぁ、
ゆっくりと離れていく唇。
瞼を柔く持ち上げれば、間近でぶつかる──竜一の視線。
「………シても、いいか?」
劣情を孕む瞳。余裕のない声。
熱い吐息。熱い身体。
全身で僕を求めているのが伝わってきて、嬉しい筈なのに……
どうしよう……怖い。
「……ん、」
目を伏せて小さく頷けば、顎先に触れていた手が僕の後頭部を包み、ベッドに優しく押し倒される。
顔に掛かる、竜一の影。
胸元に添えた腕を取られ、僕の顔の横に縫い付けられた……その刹那──
「……!」
え……
……これ、夢じゃない……よね……
ドクンッ──
足下から襲いかかる恐怖。
手首に重なる、リアルと夢の感触。
さっきまでとは違う、不穏を孕んだ大きな鼓動。ゾワリした寒気が襲い、心を凍らせながら身体を硬直していく。
……違う……佐倉じゃない……
ここにいるのは、竜一なのに……
夕方に見た、束の間の夢──ベッドに組み敷き、僕を覗き込む竜一の顔に、佐倉の面影が重なる。
劣情を孕む瞳が緩み、剥き出された僕の首筋に近付く──唇。
「………ゃ、…!」
キュッと目を瞑り、横に顔を背ける。入らない力を何とか両腕に籠め、押し返そうともがく。
……竜一、なのに……
なんで……
「……怖い、か?」
切なく囁かれる、竜一の声。
それを確かめるように、僅かに瞼を持ち上げれば……ぼんやり重なっていた佐倉の面影が、次第に消えていく。
それにホッと息をつくものの、まだ震えは止まらなくて……
「……」
小さく、頭を横に揺らす。
怯えていると思ったんだろう。竜一が、掴んでいた僕の手首を離す。そして僕の横髪をそっと掻き上げ、不安げに揺れる僕の瞳を愛おしげに見つめる。
壊れ物にでも触れるかのように、そっと梳く大きな手。縋るように竜一を見つめていると、その手が不意に止まり──
「……なん、だ……これは……」
ブルブルと震えだす指先。
驚いて、更に瞼を持ち上げれば──飛び込んできたのは、鋭くつり上がった竜一の眼。
「どう、したんだ……この赤い痕はッ──!」
その視線は、剥き出された僕の首筋に注がれていて──思わず、剥き出された首筋を片手で覆い隠す。
「……」
なん……で、そんなものが……
……あれは、ただの夢……じゃ……無かったの……?
ガクガクと震える身体。
柔く閉じた瞼の隙間から、熱い涙が溢れ……瞬きする度に、睫毛が濡れて──
「───ッ、あの野郎!!」
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