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第19話

───チン、 ピンと張り詰めた空気にはそぐわない、間の抜けたエレベーター音。 静かにドアが開くと、そこには食事を終えた夏生と那月の姿が。 「……!!」 「………、は?」 異様な光景に、目を丸くし半歩後退る夏生。それにつられ、肩が大きく跳ね上がった那月が、夏生に絡ませていた腕を振り解く。 二人の目の前には、一触即発状態の竜一と佐倉。走り去っていく萌。 「───ち、ちょっと、モエモエ!」 夏生を突き飛ばし、床を蹴った那月がその後を一心不乱に追う。 この状況にまだ理解ができない様子の夏生が、怖ず怖ずとエレベーターから下りる。エレベーターの壁にぶつけたらしい肩を擦りながら。 「っていうか、……なに? どーゆうコト?」 しん、と静まり返った空間に、間の抜けた夏生の声が響く。 ──チッ、 すっかり怒りが沈着したらしい竜一が、佐倉から手を離す。 床に崩れ落ちた佐倉が仰向けに倒れ、苦しそうに何度も荒い呼吸を繰り返す。 「おい、山本。幾ら何でもこれは、……やりすぎだろ」 眉根を寄せた夏生が、チラッと佐倉に視線をやりながら背の高い竜一に詰め寄る。 「……やりすぎかどうかは、コイツに聞いてから判断するんだな」 上から見下ろす、ビー玉のような冷たい双眸。その視線が、少し離れた所にいる僕を捉える。 「……ッ、」 状況を何も知らない夏生は、両手を握り締め口を引き結ぶと、険しい表情のまま佐倉の傍らに片膝を付く。 壁に手を付く僕の方へ、竜一が近付く。 無機質だった眼に、僅かながら光が戻り……いつもの竜一に戻っていく。 それに酷くほっとして。 壁に付いた手を離し、近寄ってくる竜一の胸に飛び込む。 「……悪かったな」 ふわりと鼻腔を擽る、竜一の匂い。穏やかな声。僕の背中や後頭部を優しく包み込む、武骨で大きな手。 さっきまで佐倉を殴っていた手と同じなのに……全然違う。 「傍に居ながら、守ってやれなくて」 「……」 ──ううん。 竜一は、悪くない。 僕がもう少し気を付けていれば,良かっただけ…… そうすれば、竜一が頭にくる事は無かったし、佐倉が殴られる事もなかった。 それを目の当たりにした、萌ちゃんも…… 「……」 『汚い』──心の奥に刺さったままの、言葉の破片が疼く。 息を大きく吐き、竜一の背中に回した腕に力を籠める。 こみ上げてくる涙を抑える事ができず、竜一の服の布地をぎゅっと掴む。 「───杉浦ァ!」 身体を捻って振り返る竜一が、佐倉に肩を貸しながら立ち上がった夏生を呼ぶ。 「悪いが今晩、部屋貸せ」

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