28 / 33

第28話

うっすらと痕の残る首筋を、片手で覆う。 『ずっと、好きだったんだ』──思い出されたのは、夢か(うつつ)か解らない、ホテルのベッドでの出来事。  ……そんな事の為に…… 汚されたんだ…… 『人種、性別、性的指向、性自認』──殴られる事に快感を覚える性癖を持っているかは、解らない。 でも、そうまでして佐倉は……竜一と─── 「おい」 隣から腕が伸び、僕の肩に回される。グイと引き寄せられる身体。力強い手。 心ごと掬い上げられ、竜一の温もりや匂いに包まれれば、心の中に掛かった黒い(もや)に一筋の光が射す。 「なら聞くが、テメェの男の傷は……どう説明するんだ」 威嚇にも似た声。 チラッと竜一の横顔を盗み見れば、那月を睨み付けるように見据えていた。 「あぁ、ナッチね。……うーん。変態佐倉から、真実を聞き出すための“名誉の負傷”……とか?」 「───だと、いいがな」 吐き捨てるようにそう言い放つと、まるで僕を守るかのように、僕の二の腕を掴む手に力が籠められる。 「……は?」 目を見開く那月。 それには目もくれず、僕から手を離した竜一が背を向け足早に歩き出す。 その後を、慌てて追い掛ける。 「ハァ──?! なにその言い方!!」 含みのある竜一の物言いに、那月が不満をぶつける。 「こらー、待てーッ! バラすぞー!!」 その声が、聞こえているのかいないのか。隣に並んだ僕の肩に腕を回し、引き寄せる。 まるで、那月に見せつけるかのように。 【END】

ともだちにシェアしよう!