……… …… 「りゅ……、」 僕の顔に影が差し、言うか言わないかのうちに、僅かに尖らせた唇が塞がれる。 一瞬──何が起きたのか解らなくて。ハッと我に返り、竜一の肩を押し返す。 周りに人影が無かったとはいえ、学校からの帰路。もし誰かに見られたらと思うと、気が気でならない。 「………竜一の、ばか」 唇を尖らせ、下から睨み付ける。だけど竜一には、僕が上目遣いをしているようにしか見えないらしい。 僕の肩に腕を回しグイッと引き寄せ、困り顔の僕に微笑む。 「……あー、なるほどねぇ～！」 その刹那、背後から声がして振り返る。 と、そこには──腕組みをし、少し離れた場所から此方をじっと見つめる那月の姿が。 「だからあの時、佐倉の顔がぁ……ふ～ん。──って。知ってるけどね」 獲物を捕らえた捕食者の如く、じっと食い入るように此方を見つめながら那月が近付く。 「なっちから聞いたんだけどさぁ。佐倉の奴、アンタの事が好きだったんだってね」 そう言って組んだ腕を解き、立てた人差し指の先を向ける。 その矛先は──竜一。 「………ぇ、」 思わず声が漏れ、慌てて噤む。 驚きを隠せないまま竜一をチラッと盗み見れば、みるみる険しい顔つきに変わっていくのが解った。 「あの旅行で仲良くなれると思ってたのに、アンタがさくらくんとばかり一緒にいるから……嫉妬しちゃったんだって」 「……」 「それで、どんな形でもいいから興味を持って欲しかったみたいで。疲れて眠ったさくらくんに、“イケナイコト”　したとか」 「──！」 ──チッ。 あの時の感情を思い出したんだろう。顔を歪めた後、竜一が舌打ちする。 「んで、突然アンタに殴られて。……やっと自分を見てくれたコトや、顔を寄せて見つめ合えたコトが嬉しかったみたい。 本当はもっともっと殴られたかった、って……なっちにゲロったらしいよ」 「……」 「はぁ……。マジ、変態だよね」 那月の瞳から光が消え、ここではない何処か──恐らく佐倉の幻影を蔑むかように、一点を見つめる。 「……」 ……なに、それ…… 那月の口から語られた真実に、ゾクッと背筋に悪寒が走る。