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第26話
それに気付いた那月がスッと近付き、萌の肩に手を添える。
「あのさ、……その事なんだけど。あたしからもちょっと、いい?」
何時になく真剣な眼差しを向ける那月に、佐倉が固唾を飲む。
「『SDGs』って、あるじゃん。──『地球とそこに住む人々が、将来にわたって幸せに暮らしていくための目標』ってヤツ。その中に、ジェンダー平等っていうのがあってさ。LGBTQ+も、その多様性の一部に考えられてるんだよね」
「……」
「人種、性別、性的指向、性自認など、差別や偏見のない社会を目指す。──でもさ。もしそれを、どうしても受け入れられない人がいたとしたら? 今度はその人を、非難して排除する?」
「──!」
那月の言葉に、ハッとさせられる。
受け入れられないと感じて不安になるのは……何も|少数派《マイノリティ》だけじゃないのかもしれない。
今まで、考えた事もなかった……本来なら当たり前の感情を持っているが故に、非難されるかもしれないって不安が生まれているなんて。
「寛容な世の中であって欲しいと思う。でも、それには……お互いが理解し合って、その意思を尊重すべきなんじゃないかな……」
真っ直ぐ佐倉に向けられる、那月の眼。その強かな視線に圧され、狼狽える佐倉。僅かに俯き、顎先に指を当てる。
「………俺の方こそ、ごめん」
ぼそりと呟くように吐かれた謝罪に、萌がゆっくりと顔を上げる。
「嫌な思い、させて……」
「……ううん」
佐倉を見上げる潤んだ瞳。安心したのだろう。僅かに微笑んだ瞬間、萌の目尻から涙が溢れ落ちる。
二人を取り巻く雰囲気が変わったのを感じ、隣に立つ竜一の袖口をそっと掴む。
あの時心に刺さった言葉の棘は、きっとこの先も消えない。だけど──
「どうした?」
僕を見下ろす、優しい眼差し。
眼を細めて微笑み返せば、竜一の手が僕の横髪を掻き上げる。
「……ううん。何でもない」
──柔らかなものに変える事なら、できるから。
「──!!」
でも、その時僕は気付かなかった。
僕の首筋にある新たな刻印に気付いた夏生が、目を丸くしている事に。
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