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第28話
長谷の強張った手に自分の手を重ねると少し力が抜けた気がした。
悪夢から起こしてやりたい…
でも…
シャッとカーテンが小さく音を立てた。
そこには先生が立っていた。
「起こせないですか?」
「起こすべきか起こさないべきか、格闘中。」
「私も毎回悩みますよ。疲れた身体を癒す為にも寝かせておいてあげたい。けれど、悪夢でも見ているのでしょうか、苦しそうに眠る彼を救い出してあげたいとも思うのです。…果たして、どちらが彼の為になるのでしょうね。」
「…出来れば、両方叶えてやりたい。」
「これはまた随分と大きく出ましたね。」
「まぁ、俺は男だからな。超絶イケメンな良い男は、目標を高く持つべし!」
「誰の格言ですか。」
先生がおかしそうにクスクス笑った。
俺は本気だ。
出来る事なら、安心して長谷が寝られる環境を整えてやりたい。
「俺。」
「そうですか。でも、今日のところは一度起こしてください。」
「分かった。」
「王子様はどのようにしてお姫様を目覚めさせるのか…とても気になるところではありますが、お邪魔虫は退場するとします。」
そう言って先生はカーテンを閉めつつ出て行った。
王子様はお姫様をどう起こすか…
一般的に考えてキスなんだろうが、それはあくまで童話の話だ。
椅子から立ち上がって長谷を見下ろす。
(さて、どう攻めたものか…)
普段なら簡単にちょちょっとキスして美味しくいただくところだが、相手が長谷となると簡単にちょちょっとというわけにはいかない。
スベスベの頬に指を滑らせてから、抵抗しないのをいい事にモサモサの前髪を持ち上げた。
「はは、ぶーちゃん出てきた…かーわい…」
長谷の顔を見たのは二回目だ。
バレたらムッとされそうだが、多分それはそれで可愛いと思う。
低くて少し丸みのある鼻頭をちょんちょんと突く。
くっきり浮かんだクマをなぞると睫毛が揺れた。
「へぇ、長谷さん睫毛は長いんだ…新発見だな。」
ゆっくり長谷の目が開く。
目が合うと、寝起きのしょぼっこい目をギリギリまで開いて前髪を押さえながらガバッと状態を起こした。
「…ゃ…ゃだ…ッ…」
いきなり身体を起こしてクラクラしたのか、こめかみを押さえて項垂れてしまった。
「急に身体起こすからだぞ。…おはよ、長谷。」
「…き…嫌いッ…」
「へぇ、長谷は俺が嫌いなんだ?」
「…好…き…」
「それはそれで小っ恥ずかしいな…」
「…す…き…好き…好、き…氷上…くん…好き…」
顔を上げて好き好き一生懸命に言う長谷は安定の可愛さだ。
「うーん、愛されてんなぁ、俺…」
長谷の鳥の巣頭を手ぐしで直しながら、実感して少し幸せな気分になった。
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