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第30話

長谷は俯いてから暫く固まって、その後決心したのかコクコクと二回首を縦に振った。 「…あ…あ、の…」 「んー?」 「…目…」 「目?」 「…閉じ…て…」 (長谷さんがキスしてくれるなら俺は目でもなんでも瞑りますよー!) ゆっくりと目を閉じた。 「これでいいか?」 「…ぅ…ん…」 長谷の冷たい手が、俺の頬に触れた。 「はは、冷たくて気持ち良い…」 「…気持ち…良い?…」 「…ん。凄い、気持ち良い。」 長谷が動いたんだろう。 ギシッとベッドが軋んだ。 「…氷上…くん…お肌、綺麗…」 (いやいや、長谷さんのスベスベモチモチには負けますよ。) 長谷の指が頬を擽る。 なんだか凄くホッとした。 「どーも。…さてさて、長谷はどこにキスをくれんのかな?」 「…あぅ………言わない…で?…」 「恥ずかしい?」 「…ん…恥ずか…しい…から…」 長谷が前髪を持ち上げた。 (おっ、おっ、コレはおでこのパターンですかい?…うーん唇はダメかぁ…残念。) 額に長谷のゆっくりとした息遣いを感じる。 心地よくて、自然と俺の呼吸も長谷に合っていく。 「…」 ーーー チュッ… リップ音が聞こえた。 (ヤバい…恥ずかしい…) 長谷の唇が触れたのは、前髪の生え際… カッと身体が熱くなった。 こんなに恥ずかしいキスを貰ったのは初めてだ。 「…あの…変じゃ…なかった?…」 「ん、上手…」 俺をこんなに恥ずかしい気分にさせるキスが下手なわけがない。 ゆっくり目を開いた。 目の前にあるのは、長谷の目じゃなくて前髪とピンクの下頬… 「…良かっ…た…」 「長谷…」 「…うん?…」 「ちょっと手の平おでこにあてて?」 長谷の手の平が額にあてられた。 「…こう?…」 「ん、そう。凄く気持ち良い…」 火照った身体に、長谷の手はとても気持ち良い… でも、俺の火照りは簡単に落ち着きそうにない。 「…氷上く…ん…」 「うん?」 「…好き…」 「ん、知ってる…」 長谷がくれる好きは、いつも一生懸命だ。 こんなに一生懸命な好きを貰った事がない。 在り来たりな言葉も、長谷から聞くと新鮮に感じる。 一生懸命な好きを貰える俺は、幸せ者だ。

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