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第53話

きっと、紘二が居たら凄く喜んでくれると思う。 まったく… 紘二紘二紘二紘二って、未練がましいにも程がある。 「小林君は…」 「え?」 「あーいや、なんでもない。」 「えー、気になるじゃないですか!」 「その…なんというか…好きな人とか…居るのかな…と…」 小林君は意外といった顔で俺を見た。 「前川さんって恋バナとかするんですね!意外!」 言った後に激しく後悔した。 それと同時に恥ずかしさが込み上げてきた。 「わ、忘れてくれ、今のは!!」 「えー、しましょうよ、恋バナ!俺、聞きたい!!前川さんの恋バナ!!」 小林君は興味津々だ。 「俺は別にそういうのは全然ないんだ。…ただ、今の若い子はどんな感じなのか知りたくて、ほら、そういうのってお菓子作りの参考になるだろ?」 かなり無理があると思う。 俺なら絶対に怪しむ。 「あ、確かにそうですよね。でも、女の子の気持ちの方が参考になるんじゃないですか?」 「ま、まぁ、そうなんだけどな。ほら、今はスイーツ男子も居るだろ?」 「なるほど!!そうですね。スイーツ男子、増えてますからね。時代に乗るわけですね!流石は前川さん!」 なんだか酷い罪悪感に襲われた。 小林君はこういう子だ。 なんというか… 人を疑わないというか… いい子なんだが、一つ間違えると危なっかしい領域だ。 「時代に乗ろうとしているじゃないんだけどな。…で、参考までに聞かせてくれ。」 「うーん、でも俺もあんまりそういうのないんですよねぇ…」 「そんな淋しい事言うなよ、若者。」 どれだけ飢えてるんだか… 変に盛り上がり始めた自分に恥ずかしくなった。

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