54 / 81
第53話
きっと、紘二が居たら凄く喜んでくれると思う。
まったく…
紘二紘二紘二紘二って、未練がましいにも程がある。
「小林君は…」
「え?」
「あーいや、なんでもない。」
「えー、気になるじゃないですか!」
「その…なんというか…好きな人とか…居るのかな…と…」
小林君は意外といった顔で俺を見た。
「前川さんって恋バナとかするんですね!意外!」
言った後に激しく後悔した。
それと同時に恥ずかしさが込み上げてきた。
「わ、忘れてくれ、今のは!!」
「えー、しましょうよ、恋バナ!俺、聞きたい!!前川さんの恋バナ!!」
小林君は興味津々だ。
「俺は別にそういうのは全然ないんだ。…ただ、今の若い子はどんな感じなのか知りたくて、ほら、そういうのってお菓子作りの参考になるだろ?」
かなり無理があると思う。
俺なら絶対に怪しむ。
「あ、確かにそうですよね。でも、女の子の気持ちの方が参考になるんじゃないですか?」
「ま、まぁ、そうなんだけどな。ほら、今はスイーツ男子も居るだろ?」
「なるほど!!そうですね。スイーツ男子、増えてますからね。時代に乗るわけですね!流石は前川さん!」
なんだか酷い罪悪感に襲われた。
小林君はこういう子だ。
なんというか…
人を疑わないというか…
いい子なんだが、一つ間違えると危なっかしい領域だ。
「時代に乗ろうとしているじゃないんだけどな。…で、参考までに聞かせてくれ。」
「うーん、でも俺もあんまりそういうのないんですよねぇ…」
「そんな淋しい事言うなよ、若者。」
どれだけ飢えてるんだか…
変に盛り上がり始めた自分に恥ずかしくなった。
ともだちにシェアしよう!