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閑話・祥の悩み
ある日の昼下がり、祥は一人奮闘していた
「………………たまには自分からキスをする…………」
テレビをぼんやりと見ていた俺はあるバラエティで特集されていた話に食いついた
マンネリ化は百年の恋も冷まさせる…
彼氏や彼女、恋人ばかりに愛情表現を任せていませんか?
たまには自分からも行動してみましょう!
言葉にできないなら行動で表すだけでも
マンネリ化は防ぐ事ができます
そんな謳い文句のような特集だったがコーヒーを飲みながら俺は思いつく節がありすぎて…
「……言葉にできないなら……行動……」
そう思った俺は一番分かり易い自分からキスをたまにはしてみようと思ったんだけど
想像よりも難しい…
直輝は一体どうやって俺にしてみたか思い出すだけで顔が赤くなってドキドキしてまともに思い出す前に恥ずかしすぎてやめてしまう
「よし!」
自分に気合を入れて昼前に仕事から帰ってきて今は寝ている直輝の元に向かう
スヤスヤと眠っている直輝を揺するが全く起きない
抓っても噛み付いても耳を舐めても全く起きない
「…………ある意味すごい…」
何をしても爆睡な直輝を見て感心してしまった
緊張が解けたら俺も眠くなってしまってリビングに一度戻るとテレビを消してマグカップを台所に置くと直輝のベットに乗り上がる
真ん中で眠っている直輝を壁側にうんしょっと押し込んでスペースを作るとその横に俺も寝転んだ
クンクンと直輝の匂いが漂うシーツを嗅いでいるとなんだか胸がポカポカしてきて瞼が重くなる
このまま寝ようと思ったとき少しだけ離れてる直輝との距離が寂しく思って横向きで眠る直輝の右腕を持ち上げて胸の中に潜り込んだ
ぺったりと直輝の胸に顔を埋めて抱きつく
直輝が寝ているからいつも絶対出来ないのにこんなに大胆な事できちゃった自分に満足してしまった
(いやいや…俺は今日キスするんだから…!)
ほっこりして忘れてしまいそうになる自分にもう一度決意すると直輝の匂いと体温に包まれて意識を手放す
◇◇◇◇◇◇
かなり眠ってしまったらしく起きたときは直輝が俺の髪を撫でてくれていた
ぼんやりとした頭の中眠っている直輝に自分からくっついたことを思い出して恥ずかしくなる
そっぽを向いて直輝から離れると直輝に抱き寄せられて耳を舐められた
「んっ」
「祥の寝顔可愛いかった」
「…男に可愛いって言うな」
「はいはい可愛い可愛い」
「うるさい変態」
「そうだね、淫乱ちゃん」
俺があー言えばこう言う直輝の返答にこれ以上は無駄だと気づいてベットから降りる
後ろを眠そうに寝癖のついた髪を揺らしながらついてきた
夕飯の支度をしないとっと思った俺は直輝に何が食べたいか聞いて冷蔵庫の中を漁る
珍しく悪戯もしないで俺の手伝いをしてくれる直輝と一緒に有り合わせでご飯を作っている時にハッとした
「……………」
(そうだった…俺は今日キスするんだ!自分から!)
いきなり喋らなくなった俺に直輝がきょとん?と見てくる
俺も見つめあげてキスをしようとするが目が合うとそれだけで悪態をついてしまった
「……何見てるんだよ」
「え、祥が俺のことみたんだろ?」
「ちっ違うし…直輝の顔じゃなくてその奥だもん」
「ふーん、どうでもいいけど」
直輝は興味無さそうにそう言うとフライパンにお肉を引いていく
(…………怒っちゃったかな…)
全く可愛くないことばっかり言う俺に直輝も本当は内心イライラしてるんじゃないかと不安がつのる
これは本当に一刻も早く本当は好きだと伝えなきゃ…!
あの昼に見た実際にあった再現VTRを思い出して俺はおたまをギュッと握ると直輝の横に移動した
「……祥、さっきからなんなんだよ?」
「ふえ?!」
直輝はジト目で俺を見下ろす
そんなにバレるほど不審だったのだろうか…と自分のしたことを思い出しても見当たらない
俺はもうごちゃごちゃ考えるのをやめるとおたまを握ったまま俺を見下ろす直輝の肩に捕まり背伸びをした
グイッと縮まる距離
直輝の整った顔が近づき形のいい綺麗な唇を目にしてギュッと目を閉じる
……………………
………………あれ………
閉じた目をうっすらと開けると目の前に直輝の顔
後数センチのその距離なのにまさか背伸びをしても届かなかった
プルプルと限界までつま先立ちしているのに直輝の唇に後数センチ足りなくて恥ずかしさに涙がこみ上げてくる
「…………」
「…………祥」
「………な、何も言わないで…」
「……今のってキスしようとした?」
「なっ何も言うなって言っただろばかぁ!」
キッと直輝を睨み上げ俺よりも背の高い直輝に怒りをぶつける
俺だって背は低くないのにそれでも届かなかった
どうしてそんなに大きいんだよ!
理不尽な怒りを燃やしておたまでせめても顔を見られないように隠していると直輝に両手を掴まれ顔を見られる
「んっ」
「へ?」
「祥からキスしてくれんだろ?」
「うる…さい…っ」
直輝は少し腰を曲げて俺と顔を近づけてはキスがしやすいようにしてくれる
だからって直ぐにできるほどさっきの失敗は物凄く恥ずかしくて
あたふたとしていると直輝が口を開いた
「…早くしないと肉焦げるよ?」
「……」
「肉焦がしたの食べたい?」
「〜〜〜目閉じて!」
「はいはい」
直輝はうっすらと笑みを浮かべると目を閉じる
綺麗なその顔にとくとくと早まる鼓動でゆっくりとキスをした
「まさかそれだけ?」
「え?」
「キスっていうのはこういうのを言うんだよ」
「んんっ……ふ……、んっ…直輝っ…ん」
腰を抱き寄せられ耳を撫でられる
力が抜けて手のひらからおたまが落ちた
カクカクと足が揺れて腰が痺れる
ぽーっと頭が霞だし全身が甘く蕩けた時直輝の唇が離れていった
「……祥ちゃんからのキスご馳走様」
にいっと悪戯に笑う直輝はエロくて
もうすっかり直輝のキスにとろけた俺はその場にへたりこんでしまった
「んー夕飯もいいけどさ」
「……な…に…」
「折角天邪鬼な祥から誘ってきたし、ここでさきに祥の事食べよっかな」
「…だ…め…、いや…直輝ここは…」
「んー?本当に嫌だ?」
「………そ…れは…」
「しょーちゃん、本当に嫌なの?」
「……や…じゃない…ここで、食べて…」
「ふっじゃあ遠慮なく頂きます」
その後はいつも通り足腰が立たなくなるまで直輝に泣かされイカされた
「……もう二度と俺からキスなんかしない」
「あれはキスのうちに入んねーよ」
「…………くたばれ絶倫野郎」
「もっとぉ〜ってよだれ垂らしながらイキ狂ってた淫乱は誰?」
「〜〜〜〜〜〜っうるさい!ばか!変態!」
結局今日も最後まで直輝のペースに乗せられちゃったけど、キスをしたときの嬉しそうな直輝の顔が忘れられなかった
たまには、本当にすごーくたまになら自分からキスするのも悪くないかもな…
直輝には教えてあげないけど
そんなことを思いながら今度はちゃんと直輝と一緒に夕飯を作り笑いながら食べた
(……それにしても背たかすぎる…俺も伸びないかな)
こうして俺の小さな奮闘は結果失敗したけど、何だかんだいい思い出になった
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