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優しい温もりと居場所

呆気に取られていた二人のうち背が高くてチャラっぽい印象のやつが直輝を怒鳴りつけながらなぐりかかっていく 「てめえ!ふざけんじゃねえぞ!」 「…………」 「えっ?!……あ……なんで…」 「……ふざけてるのはどっちだ?」 思い切り降りかかってくる拳を直輝はよける事なく真っ直ぐに見据えたままで パシッと手のひらにいとも簡単にその拳を抑え込むと そのまま後ろ手に捻りあげると男のみぞおちに肘を突き刺した 「グハッ!オエッ…!」 「祥を泣かせたのは誰だ」 「いぃっ?!ぁあっ!折れる…っ!アアっ!」 直輝は膝をついた男の腕を捻りあげて冷たい声でそう聞いていた そのままおかしな方向に腕を曲げられて直輝のしたで男が痛みにのたうちまわる 「言えよ、誰が祥を泣かせた」 「あああっ!ごめんなさいっ助けてっ…!タカが!タカがっ」 「………」 「ひぃっ!ぁあっ!」 折れてしまうんじゃないかと思うまで捻られた男は高田の名前を言うなり開放された途端直輝から逃げ出す 立ち上がった直輝はめちゃくちゃになった教室の真ん中で未だ殴られ倒れ込んでいる高田の髪を思い切り鷲掴みにして起き上がらすと再び拳を振りかざした ――ッダメ!! 「直輝ッ!!」 「………」 「うあ?!………っあ…ぁ」 高田の顔面に当たるほんの数センチで直輝の手が止まる 鼻に掠れるほど近くで止まって拳を見ては高田はパクパクと口を開いたままだった 「…っ直輝殴っちゃダメ」 「………」 「俺が…悪かったから……直輝の手が傷つくのは…嫌だから…っだから…直輝、お願い…」 直輝の手は止まったけど 俺の方を見ることなくずっと背中だけがこちらを向いている 表情が… 直輝が一体今どんな顔をしているのか分からなくて不安で仕方ない 初めてこんなに怒った直輝を見た俺も これで止まってくれるか分からなくて不安だけが募っていき教室は怖いくらいに沈黙に包まれていた 「…チッ…消えろ」 「……え…っ」 「聞こえなかったか?お前ら殺されたくなかったら今すぐここから消えろって言ってんだよ」 「……っ!は、はい!」 その沈黙を破ったのは直輝で パッと高田を掴みあげていた手を離すと低くそう呟く 唖然としていた3人は本当に殺してしまうんじゃないかと恐怖するような鋭い視線で直輝に睨みつけられるとバタバタと転げるようにして教室を飛び出していった 「これ着ろ、俺達も人のいない所行くぞ」 「………」 高田達が出ていってからすぐ 直輝は俺に背を向けたままで だけど暫くして俺の方へ歩いてくると着ていたニットを脱ぐなりそう言って渡された おずおずと言われた通りニットに袖を通そうとしても震える身体じゃもたついてしまって それを見た直輝が俺の前にしゃがみこむと ニットを着させてから一度頭を撫でてくれた 少しだけ待っててと言い残すと直輝は部屋に散らばった荷物を纏めて戻ってくる そのまま何も言わずに立ち上がれない俺を抱き上げると使用禁止となっている実習室へと向かった 「祥」 「………」 「ごめん」 「へ……」 「…守れなくて、ごめん」 「直輝…?」 「怖かったよな……遅くなってごめん」 「――っ」 「もう、大丈夫だから」 「なお、き……」 「………ごめん祥」 沈黙の中 直輝の放った言葉に喉が詰まる なんで直輝が謝るんだよ 俺が…俺が悪いのに…っ それからずっと教室に着くまで俺と直輝とのあいだに会話はひとつもなかった だけど抱きしめられた触れた肌から直輝の心臓の音と体温が伝わってきて それだけでもう十分だった 無駄な会話なんて要らなくて それが全ての答えだった 「ここで合ってる?」 「…うん」 今は全く使われてない実習室へ入ると直輝が鍵をかけて中の椅子へと座らせてくれる 「…祥、傷見てもいいか?」 「………」 「……嫌わないよ」 「えっ?」 「嫌いにならないから、傷見せて?」 「…っ」 心の中を読んだみたいに考えていた事を言われてドキッとする ずっと目が見れなくてそらしていた視線を直輝へと向けると 酷く辛そうに顔を歪めた直輝が俺を見上げていて喉の奥が締め付けられた 「俺に触られるの嫌だ?」 「ちがっ…違う……でも」 「………」 「……直輝他に…」 「なに?他に、どうした?」 「………」 「…祥、先に俺から話していいか?」 「…うん」 振られるんだろうか 自分の口から聞けなかった 『ほかに好きな人出来た?』 って聞けなかった うん、って言われるのが怖くて こんな状況になっても聞くのが怖くて逃げてしまった 「…祥が見たの俺で間違いない」 「そっか…」 「悪かった」 「ううん、仕方ないよ」 「…悪い…ありがとう」 苦しそうにそう言う直輝を見て心臓が捻り潰されるみたいに痛みを訴える やっぱりあの日の二人は直輝だったんだ このごめんねはきっとそう言う事なんだろうな… その子の事が好きなんだ直輝は だったらちゃんと笑わなきゃ 笑顔でしっかり直輝の背中押さなきゃ 「直輝ありがとう」 「何もしてない…俺は」 「ううん、そんなことないよ…凄い楽しかった俺が素直じゃなくて喧嘩ばっかだったけど……でも本当に後悔してない」 「…祥…?」 「直輝ひとつ聞いていい?」 「なんだ?」 「………好き?」 「――っ?!」 「…その人のこと…、大切?」 「ちょ、っと待て…え?俺が?」 「…………うん」 じっと見上げてくる直輝がパチクリと驚いた顔をする だけど直ぐに何かに気づいたみたいにハッとすると長いため息が聞こえてきた 「はあ…違うよ祥、俺が好きなのは祥だけだ」 「――っ?!」 直輝のその言葉に驚く それと同時に胸がぎゅうって締め付けられた 嬉しい筈なのに素直に喜べないんだ 聞き間違いじゃないはずだけど どういうこと…? だって直輝は―― 俺に気使ってるんじゃないかって 嘘ついてるんじゃないかって思えて 直輝のその言葉がハリのように胸に突き刺さる 直輝を見つめたまま黙り込んでいると両手を優しく大きな掌で包み込まれた 「何か勘違いしてるけどその女と俺は何もない」 「え…?でも…じゃあなんでっ」 「信じれない?」 「………」 「あの日駅で見たのは俺と、高田の元カノだ」 「……高田の…元カノ…?」 「そう、……後ごめん嘘ついた」 「…………嘘?」 「あの日、祥と電話して喧嘩になった日本当は仕事終わってたんだ」 「え…」 「今度仕事するディレクターと俺の事務所の先輩と俺とでご飯に行ったのは本当、でも仕事はそこまででその後先輩に連れられてクラブいってた……で、そこで高田の元カノに会ったんだ」 「な…んで」 「……祥は気づいて無かったけど、高田は祥の事友達としてじゃなくて……ごめん、変な目で見てたの気づいたから…だけど祥に言えなかった、絶対傷つくと思ったから」 苦しそうに慎重に 言葉を選びながら 俺がどうしたら最低限傷つかなくて済むのか 俺よりも辛そうに悲しそうに話す直輝の言葉にドンキで頭を殴られたような衝撃が走った え?じゃあこれって全部… 俺の勘違いで なのに俺は直輝をずっと疑ってたのか…

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