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◇◇◇
「直輝…これ、傷になってる」
「大丈夫気にすんな」
あの日キスした時に唇を噛まれた時に出来た傷跡を心配そうに祥が撫でてきて笑みが溢れた
久しぶりの祥の体温と匂いに胸がギュッと締め付けられる
本当に好きで好きで堪らない
一週間も経ってないのに祥に触れられなかった時間がまるで何十年みたいに長く感じた
サラサラな黒髪に指を通すと祥が気持ちよさそうに目を閉じて頬をすり寄せてくる
引っ掻き傷が出来ているほっぺたを撫でると目を開けた祥がニッコリと微笑んだ
「ん?どうした?」
「……俺今すごい幸せ」
「ふふっこれからもっと幸せにしてやる」
「ううんもう十分だよ」
そう言って本当に幸せそうに祥が笑うから
目の奥が熱くなる
こんなに身体に青あざ作って
あちこちにかすり傷作って
俺がもしも今日ここに来なかったら
きっと祥はもっと酷い目にあっていた
そう考えると憎くて堪らない
高田もだけど何よりも俺自身が一番憎くて堪らない
守れなかったんだから
一瞬、俺が自分だけの考えに浸っていたのに気づいて祥が心配そうに伺ってくる
大丈夫って笑いかけると
苦しそうに顔を歪めながら祥の両手が俺の頬を包み込んだ
「ん、どうした?」
「これ、ごめんね」
「大丈夫だって、痛くない」
祥の親指が優しく壊れ物に触るみたいに
再び傷跡をなぞった
本当に痛くない
俺の傷なんて祥が今迄沢山付けられてきた傷に比べたら何一つ痛みにもなりやしない
ぐっと怒りを堪えるように歯を噛み締めた時
唇を何か熱く濡れたものに触れられた
「……」
「――っ!祥!」
「…早く、治したいから」
「くすぐったい」
「我慢して…」
ほんの少しだけポーと頬を赤く染めた祥がチロチロと子猫みたいに切れた唇の傷を舐めてくる
恥ずかしがり屋の祥にとってはきっと死ぬほど羞恥的な事なんだろう
ウルウルと瞳に涙を浮かべながらそれでも懸命に舐めてくる姿は健気で愛しくて堪らない
「今日はサービスいいね」
「うるさい…っ…舐めたら良くなる…から」
「ふっ信じてんのかそれ」
「え…っ?違うの…?!」
俺の言葉に嘘だろとでもいいたげに驚いた祥がパチクリとこちらを見てくる
これはそんなの信憑性ないだろなんて切り捨てたらきっと顔真っ赤にしてツンツンして拗ねるだろうな
「んー違わないけどさ〜」
「けど…?」
「そんな子猫みたいな舐め方じゃ朝までかかるよね」
「えっ?!」
膝の上に乗っていた祥を床に押し倒して
手首を押さえつけたまま見下ろす
真っ赤な顔をした祥がぶわっと一層頬を赤らめたのを見て嗜虐心を煽られた
「俺はこっちの慰め方が好きだな」
「待っ…!んぅ…、っ…あ、直輝…っうがい…しなきゃ…っ」
「…構わないよ俺がキスで消毒してやる」
「〜〜〜っ馬鹿…!恥ずかしいやつ…」
「ふっ嬉しいだろ?」
「…っ…うん…直輝がいい」
「――っ!」
小さく頷いたのを見て驚く
今日の祥はとことん素直らしい
いつもなら絶対殴るかツンケンするかなくせに
間違いなく右ストレートは飛んできた筈だ
だけど今日の祥はそうじゃないらしくて
たまにこうやって驚くほど素直になるから
俺はいつか萌え死ぬんじゃないかって不安だ
「はぁ、そういうのどこで覚えてくるんだ?」
「え…?」
「そうだったな祥は天然だった」
「なに?天然?」
キョトンとしている祥を見て
天然で無自覚ほど恐ろしいものはなかったと思い出した
「何もないよ、それよりさ祥?」
「な、なに…?」
「俺の事好き?」
「〜〜っ!う、うん」
「大好き?」
「なっ…!……大好き…」
「愛してる?」
「お、まえ…!」
「いいじゃん仲直りしたんだし数日分聞きたいんだけどな〜」
「…っ…あ、…あ、…」
「ほらほら早く」
「ぁ…して…る」
「あははっそれじゃあ何言ってるか分からないよ」
「ッ!愛してる!これで満足か馬鹿直輝!」
「うん満足」
いつも通り暴言を吐きながらそっぽを向く祥が見れて笑みが溢れる
祥の綺麗な首にくっきりとあいつらのうち誰かの手形がついていて今さっきまでの清らかな気持ちが瞬時に黒く染まった
ふと手を伸ばして折れてしまいそうな程華奢な首元を撫でると
横を見ていた祥が真っ直ぐに見上げてきた
「直輝…」
「ん?」
「……俺…愛してる…大好き、だから…直輝の事大好きだから…っ、俺を置いて何処にも行かないで…っ」
苦しそうに絞り出したかのように掠れた声でそう伝えてくる祥に胸がしめつけられて焦げるように痛みだす
悲痛そうな顔をしている祥のオデコに優しくキスをすると何度も頭を撫でながら返事をした
「うん行かないよ、付き合った日約束しただろ?」
「一生…そばに居て…嘘でもいいんだ……今だけでもいいからっ」
「嘘なんかじゃない…一生居る、死ぬまで、死んでも俺はずっと祥といるよ大丈夫、大丈夫」
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