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「…んー……」 「………」 寝返りを打った時、肘が何かにぶつかった衝撃で眠りから覚める 体が物凄く重い いつもよりもうんと酷く気だるくて困惑する あれ…俺、何してたっけ… 未だ覚醒しない頭を働かせようとして 何度か瞬きした視界に写った直輝を見て胸がギュウッと締め付けられた ……直輝、可愛い やっと少し動き出した頭で理解できたのは 直輝の腕の中にガッシリと抱きしめられて居るってことと スヤスヤと気持ちよさそうに眠っている直輝の幼い寝顔が可愛いって事だ 「……直輝」 「……んー」 サラサラな白髪を撫でると直輝が気持ちよさそうにする それが愛しくて寝ていたらこんなにも素直そうで可愛らしいのに起きてる時はあんなに意地悪なんだから驚きだ 直輝が色々と気遣ってくれてるのを知ってる 裸で眠る直輝の肩や腕に傷跡が幾つもあってその原因は俺で きっといつも俺が声を我慢しようとして唇噛んじゃったの止めさせてくれる為に噛んでも何も言わず撫でてくれる そういう気付かない所で直輝に沢山愛されてるの知ってる 貰った以上の事を俺もしてあげたい 直輝の事沢山愛したい 寝ぼけた頭でそんなこと考えながら目の前の直輝を撫でていたら段々と記憶が蘇ってきた …………あれ……俺、待って… バッと体を見るとしっかりと洋服は着ていて 俺がお漏らしやら何やらで汚したシーツも部屋も何もかも綺麗になっていた 体もベタベタする事なく綺麗だしシャンプーのいい香りがする きっと全部また直輝がしてくれたんだ… あの後、直輝に強請った後の記憶がない 意識飛ばすことはいつものことだけど 毎回直輝にその後のことを聞かされると信じたくない事ばっかだ きっと今回も何かやらかしたに違いがないし 覚えている限りでもした事が今になって恥ずかしくて堪らない 「〜〜〜〜っ!直輝!起きて!」 「………」 「直輝っ」 「……………」 ユサユサと揺すっても何一つ反応がない それどころか気持ちよさそうに眠っていて腹が立ってきた 背中に回された腕を退かして 体を起こすとドッと疲れが襲ってくる 俺、多分かなり乱れたんだな… こんなに体が怠いって事は要するにそう言う事なのだから 直輝が起きたら暫くはきっとこの事で弄られるに違いない 「……はぁ…もー、なんで俺こんな…」 ぐしゃっと前髪ごと額を押さえつけて後悔やら反省やらした時何かが視界の隅に映った 「ん?なにこれ」 薄く綺麗なスカイブルーの包袋が枕の横に置いてある 何だろうと思って持ち上げたとき 小さなメモ用紙が落ちた 「………え」 その内容は直輝からで 開けてみてってそれだけのシンプルな内容 直輝らしい簡潔な言葉にふっと笑みが溢れる 一体またどんなイタズラかと思いながら ガサガサと袋を開けて中を見て驚く 中に入っていたのは 手のひらよりも少し大きめの海月のぬいぐるみだ 「え……、えっ!」 これ、昨日の? 昨日行った水族館のやつ?だよね? タグに昨日直輝とデートした水族館の名前が書いてある いつの間に買ったんだ 凄い可愛い! けど、これを直輝が一人で買ったんだと思ったら何だかおかしくてそれこそ愛しくて堪らない クリクリな真っ黒の目がついた愛らしい海月のぬいぐるみを見て胸がぎゅうっと締め付けられる そのまま人形を抱きしめてまだ寝ている直輝のほっぺたにそっとキスをした 「ありがとう、大好き直輝」 「……」 「本当…大好きだよ」 死んじゃうくらい幸せだ 目の奥が熱くなってくる こんなに幸せばっかで不安になるぐらい それほど直輝が好きで堪らない ジーンとぬいぐるみを胸に抱きしめて幸せに浸っていると隣からハスキーな声が聞こえてきた 「気に入った?」 「なっ直輝…!」 「ふふっ俺の事大好きなんだね」 「〜〜〜っ!お前っ」 「昨日、祥に嫌いって言われたから」 「あれはお前も悪いだろっ」 「可愛すぎる祥が悪い、ほらおいで」 「ん……」 いつから起きてたんだろう でもきっと直輝の事だから最初っから起きてたんだろうな グイッと腕を引っ張られてそのまま俺も もう一度布団に潜り込むと直輝の胸に飛びつく 「ん?どうした、やけに甘えん坊だな」 「……別に、直輝の勘違い」 「ふーん?」 「……ちょ、ちょっとそういう気分なの!なんか文句あるのかよ!」 「ふふっ俺は何も言ってないよ?」 「〜〜〜〜っ」 「拗ねるなよ、それ気に入ってくれた?」 「……うん」 「そ、良かった」 「……………ありがとう」 「いいえ」 「……後、昨日は…ごめ…」 「あー、なに?噛み付いた事とか?引っ掻いたりとか?挙句の果に駄々こねてチンコ離さなかったりとか?」 「――っ?!」 「あははっ顔真っ赤だ」 「うるさいっ」 「はあ幸せ」 「………」 「起きて一番に祥の笑顔が見れた」 「なんだよそれ…」 「嬉しそうに笑ってる祥が一番に見られるんだ、幸せに決まってる」 「…………」 ほんの少し眠そうな声で直輝が俺の髪に顔を埋めながら話す トクン トクンって優しく直輝の心臓の音が肌を通して伝わってきて俺だって幸せで堪らない 「……俺も」 「ん?」 「俺もさっき…思ってたよ」 「……幸せって?」 「うん」 「…そっか、だったら嬉しい」 「幸せ過ぎて少し怖い」 「何も怖くないよ大丈夫」 「………消えない?」 「消えない、俺はずっと祥の傍にいる」 「…………」 「大丈夫だよ祥、約束したろ?」 「ごめん…」 「何謝ってんだよ、そこはありがとうだろうが」 「うん」 「………俺は置いてったりしないから、朝起きて一番最初に祥におはようっていうのは俺だけ」 「陽もいる」 「…ダメ、陽よりも俺が一番」 「ふふっバーカ」 「バカは祥だろ」 バカとかアホとか言い合いながらオデコをくっつけてクスクス笑い合う 直輝と付き合ってから怖い夢を見る事が無くなった 両親が死んで皆が居なくなって独りぼっちになる夢を見る事が少なくなった 消えない、なんてそんな言葉を直輝に言わせて確かめるなんてどうかしてる 普段なら絶対言わないのにな 幸せすぎると少し怖いんだ でも直輝が優しく笑ってくれるから根拠なんて無いくせに何故だか大丈夫だって思える 「まだ寝れるな」 「うん」 「後少しだけこのまま」 「…うん」 にぃって嬉しそうに直輝が笑って俺を抱き寄せる 隙間なんて1ミリもないぐらいくっついて 直輝の腰に足を絡めてやった それから2人でクスクス笑いながらポカポカした気持ちいい空気に包まれてそっと目を閉じた

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