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【番外:カガミズ編】ブランデー・エッグ・ノッグ

触れ方がわからなくて 伝え方を知らないから ただ見てるだけでいいだなんて 格好つけたプライドのせいで、 初めて人を好きだと思う気持ちをくれたたった一人の惚れた相手に見てもらう間もなく振られた * * * 「瑞生ー!どこいってたんだよ」 「んーそこらへんー」 「お前は猫か!」 「それで何か用あった?」 「おー!瑞生もこの後飲み会行くだろ?」 ちょうど飲みたかった気分の俺は快く頷く 今さっき長らく惚れていた後輩にキッパリと振られた 昨日襲いかけた癖に悲しそうに拒否しない祥を見ていたらそれ以上の事が出来なかった 見てるだけでいいだなんて馬鹿なことを考えたもんだ そのおかげで知らぬ間に祥は他の男のものになっていた 祥はまだはっきり好きかどうかわかってなさそうだったけど、あれは祥もどっぷり惚れている ずっと祥を見てきたんだからわかる 祥にそんな目をさせる直輝ってやつに嫉妬した あー、今日は誰でもいいから抱いて忘れよう 祥を好きになったからって俺のクズさが直るわけはなくてむしろ振られた今咎めるものもないんだから一層前より酷くなりそうだ また昔と変わらず俺を好きだと言う人を好きになる そうやってふらふらと良く分からない愛情の満たし合い 祥ともし好き合えたなら一体どれほど満たされて幸せを感じられたんだろうか 俺はきっと祥の事ドロドロに甘やかして溶かして一生俺から離れられなくなるほど縛りつけたと思う そんなもしもなんて事を考えながら専門の仲間とグイグイ酒を飲む 飲んでも飲んでも酔えなかった そのまま二次会まで突入しても酔えない むしろ覚めていく一方 誰かしら抱いて寝ようと思ったのにそんな気分もどこかへ行ってしまい結局お開きした俺は地元に戻り家へと向かう 地元の駅に着いて尚更心臓が痛んだ 昨日一日祥とこのすぐ近くを歩いたんだ たった一日の思い出 祥にとってはただの気晴らしでも 俺にとっては最初で最後のデート まさか同じ駅で近い場所に祥が住んでたなんて知らなかった そのまま帰る気にもなれなくて俺は足をあの場所へと進める 祥と初めて出会った場所 祥に一目惚れをした場所 俺にとっては物凄く特別な思い出の場所 駅から歩いてちょっとすると静けさに包まれた公園にたどり着いた 昔よりも錆びれた公園のブランコに座り軽くこぐ キィキィと音を立てて動くブランコの音がなんだか感傷を酷く煽った 大量にお酒を飲んだせいか少しだけ気分が悪くなる それに成人した男が夜中一人感傷に浸りながらブランコなんて気持ち悪すぎて立ち上がった 振られた癖になよなよしてるなんて俺もまだまだ子供だ ズボンについた砂を軽く払い 公園を出て帰ろうとしたとき少し先にある通りに綺麗なライトブルーの光が見えた こんな場所になんのお店かと立ち寄ると 昼はカフェをやっていて夜はバーをやっている個人経営のお店がある 「…へえお洒落だな」 可愛いよりは洒落た感じの大人っぽい空気を漂わせる外観 今度また来るか、そう思い立ち去ろうとした時扉が開いた 「立ってんなら中入りなよ」 「…………」 ウェーブパーマのかかった長めの黒髪に笑顔を浮かべた知的そうでクールな雰囲気を持つ大人の色気がある男に声をかけられる よく見ると全身黒に包まれたシャツとズボンに腰にはエプロンを巻いていた 「俺ここのオーナーでさ、せっかく立ち止まってんだし入りなよ何か俺が奢ってやるよ」 「……じゃあ入ろうかな」 やっぱりお店の人なんだな そう思いながら俺よりも一回りほど歳上の男に案内されるまま中に入る 中もお洒落で凝っている装飾達をキョロキョロと見ていた カウンターの端っこに案内され腰掛けるとオーナーに注文を聞かれ答える 出された酒を飲んで驚いた 「…美味しい」 「だっろ〜〜!そこらの居酒屋のは飲めなくなるくれーうまいだろ!」 「…………」 一番最初のイメージとは違う人懐っこそうな笑顔でにぃーと笑いながら嬉しそうに話している 「酒だけじゃなくて飯もうまいぞ、今度食いにこいよ」 「それも奢りですか?」 「バーカ、大人を財布にするんじゃありません」 ジョークに笑いながら答えてくれるオーナーはやっぱり最初のどこか知的でクールなイメージよりも太陽のイメージのが合ってるように思える それからずっと人懐っこいオーナーと普通に話をしながらお酒をご馳走してもらいながら談笑していた時オーナーがふと話をきり俺を見つめてきた 何かと思ったとき、オーナーが口を開く 「さっきなんであんな悲しい顔して立ってんだよ?」 「…さっき?」 「俺の店の前でたってた時」 「……してた?」 「してたからついつい放っておけなくて声かけちまったよ〜」 「ふふっ俺の事がそう見えたって事はオーナーこそ悲しい事でもあったんですか?」 「………お前ぇ…大人をからかうなんて後十年は早いっての」 「あはは、すみません」 核心をつかれて驚いたがいつもと変わらず飄々とかわす 「仕方ねえな〜ほらこれでも飲めよ」 「これなんて名前のお酒ですか?」 「メリーウィドウだよ」 差し出された今作られたカクテルは オレンジよりも赤く赤よりは薄く綺麗な色をしていて甘い 「それは俺からのお前への慰めだ」 「ふっ慰め…ありがとうございます」 そのオーナーからもらったカクテルを飲み終わる頃には結構酔いが回ってきて明日もある学校のためにその日はそれで店を出た 帰るときお金を払おうとしたら オーナーに奢りだって言ったろと怒られ本当に一銭も出させてくれず有り難くお言葉に甘える 見ず知らずの初対面でこんだけ良くされるのに何だか居心地が良くない 借りを作ってるみたいで嫌だと思った俺は 今度はランチの時間にご飯を食べに来ると伝えてその日は家へと帰った

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