38 / 270
第37話
抗議しようと八神を見ると、あやすようにまた髪を撫でられた。
俺の両頬を包んでリップ音を響かせながら顔中にキスを降らせる。
何度も何度もバカのひとつ覚えみたいに…
「…お前、しつこい。」
「君が、あまりに可愛らしいからだよ…」
「やっぱり、お前の目は腐ってる。………つか、なんで約束を守らなかった。」
「いいわけになってしまうけれど、仕事の都合で急遽出張になってしまってね。」
「断りの一つくらいはできただろ…」
「そうだね、本当に申し訳なく思っているよ…。あんなにも楽しみにしていたのにも関わらず、忙しさにかまけて大切な約束を失念するだなんて…」
バカ正直なヤツ…
適当に誤魔化す事もできた筈だ。
それなのに、忘れてた事を認めた。
八神は嘘がつけないヤツなのかもしれない。
「別に、もういい。理由は分かったし、お前はきちんと謝った。だからこの件は終わりだ。」
「怒っている?…」
「もうこの件は終わりだって言ってるだろ。…少し…寝かせろ…」
一気に疲れがきた。
瞼が落ちてきて視界が狭まった。
ベッドが軋んだと同時に、背中に熱を感じてなにかに包まれた。
それが、妙に馴染んで感じた。
「…蹴人、好きだよ…君を、愛している…」
俺は、薄れていく意識の中でそんな言葉を聞いた気がした。
ともだちにシェアしよう!