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第43話
その後、蹴人をシャワーへ行かせ、俺はティッシュペーパーで後処理をし、ズボンと下着を履き直した。
汚れたシーツを敷き替え、キッチンへ向かい冷蔵庫から水のペットボトルを取り出し、サイドテーブルに置いてから蹴人と入れ違いにシャワーを浴びた。
身体をサッパリとさせ、バスローブを羽織り、紐を結いながら寝室を覗くと蹴人が大きく溜息をついていた。
「蹴人、溜息をつくと幸せが逃げてしまうよ。」
蹴人に近づき覗き込んで声をかけると慌てて体を起こした。
「黙れ。誰のせいだ。」
「ふふ、俺のせい…かな?」
「…腹立つ。」
そう言った蹴人がいつもと変わらぬ様子で安心した。
ふと視線を感じた。
視線を辿ると、蹴人と目が合った。
あまりにジッと見るものだから、少し照れ臭い気持ちになった。
「あまり見つめられると、照れてしまうよ。」
隣に座り、指先で少しの間可愛らしい猫ッ毛を遊ばせた後、そっと頬を撫でた。
「気のせいだろ。つか、人の髪で遊ぶな。」
「猫っ毛が、とても可愛らしいね。」
その手はすぐに跳ね退けられてしまった。
「黙れ。」
「触れられるのは、苦手かい?」
「慣れてない…」
「そう。」
「…」
「では、これからは俺がじっくりと慣らせてあげるよ…」
蹴人を抱き寄せて耳元で囁き抱き寄せた。
何か言いたげな蹴人の頭を撫でる。
両頬を包み此方を向かせると顔中にキスをした。
呆れてしまう程の幼稚な愛情表現だ。
「…お前、しつこい。」
「君が、あまりに可愛らしいからだよ…」
「やっぱり、お前の目は腐ってる。………つか、なんで約束を守らなかった。」
「いいわけになってしまうけれど、仕事の都合で急遽出張になってしまってね。」
「断りの一つくらいはできただろ…」
「そうだね、本当に申し訳なく思っているよ…。あんなにも楽しみにしていたのにも関わらず、忙しさにかまけて大切な約束を失念するだなんて…」
「別に、もういい。理由は分かったし、お前はきちんと謝った。だからこの件は終わりだ。」
「怒っている?…」
「もうこの件は終わりだって言ってるだろ。…少し…寝かせろ…」
そのように口にした後、俺の腕から離れて背中を向けてしまった。
もう少し蹴人に触れていたくて、後ろから抱き寄せた。
特に抵抗をする気配はない。
ただ、身体に感じられたものは蹴人の重み…
身体を預けてくれたのだ。
「…蹴人、好きだよ…君を、愛している…」
そう耳元で囁いた。
蹴人からの返答はなかった。
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