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第1話
衝撃的な展開から約一ヶ月半が過ぎた。
残念な事に、八神との関係はまだ続いている。
いや、続けざるを得ない状況だ。
ほぼ毎日来る電話には、いい加減うんざりする。
そんな生活のせいで他のセフレと会う機会もなくなった。
俺を呼び出す度にバカみたいに大量の痕を付ける。
そんなものを残された身体で遊び歩けるわけがない。
ようするに、立派だと褒めてもらえる俺のムスコが活躍する機会がなくなったという事だ。
そして今、俺にはもう一つうんざりしている事がある。
「シュートシュート、八神さんまた来てるぞ。」
「あぁ、知ってる…。面倒だからほっとけ。」
「可哀想じゃね?ほら、超ご機嫌でシュート見てんじゃん。ホント、八神さんってシュートの事大好きだよな。」
「は?…気持ち悪い事言うな。」
「シュートもさ、フラフラ遊んでないで、いい加減収まるところに収まっちゃえよ。」
「颯斗、お前黙れ…」
冗談じゃない。
俺は誰にも縛られずに自由気儘に生きていたい。
いや、それは言い訳だ。
人の心に触れなくない…
ただそれだけだ。
だから俺は…
誰のモノにもならない。
「おいこら、喋る暇があるなら仕事をしろ。」
後ろから来た店長に、トレーで軽くケツを叩かれた。
店長と言えば、こないだキッチン担当の渡瀬さんにアンアン言わされているのを偶然目撃した。
本人達は気づいていないみたいだが、見てしまった俺としてはなんとなく気まずい。
店長は面倒見が良くて頼れる存在だが、渡瀬さんはとにかく謎だ。
とにかく顔が怖くて口が悪いって事くらいしか分からない。
でも、多分悪い人じゃないと思う。
「へーい…。シュート、とりあえず八神さんとこ行ってこいよ。シュートが来ないと注文しないって雰囲気漂ってるし。」
颯斗の言葉に妙に納得して盛大に溜息を吐いた後、トレー片手に渋々お決まりの席に向かった。
遠目に見ても、八神のスーツ姿は憎たらしいくらいサマになっている。
「いらっしゃいませ、お客様。とっととお仕事に戻られてはいかがですか?」
俺は引き攣った笑みで嫌味たっぷりに言った。
「ふふ、相変わらずだね、蹴人。昨日はとても可愛らしかったというのに。」
「…死ね。」
「酷いなぁ。」
「ご注文はお決まりですか?」
「では、アイスコーヒーをいただこうかな。」
「アイスコーヒーですね。ご注文承りました。ごゆっくりお過ごしください。」
とっとと帰れと目線で訴えると八神は余裕の笑みでそれをかわした。
一礼してその場を立ち去り、裏に入るとニヤニヤした颯斗に出迎えられた。
「で、八神さんなんだって?」
「アイスコーヒーだそうだ。」
「そうじゃねぇって。今日の口説き文句はなんだったって話だ。」
「颯斗、お前バカ言ってないで仕事しろ。」
颯斗がブーブー言いながらホールに出て、俺はアイスコーヒーを作った。
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