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第39話
俺は洗面所に行って乾燥機から服を取り出して着替えてからリビングに戻った。
そして、いつものソファーで寛ぎながら八神を待った。
暫くすると、ネクタイを締めながら八神が戻ってきた。
「蹴人、お待たせしたね。出られるかい?」
「あぁ。」
玄関に行き靴を履いた。
八神は靴ベラを使って靴を履いていた。
オッサンっぽいが所作がいちいち綺麗で思わずガン見してしまった。
「蹴人、どうしたのだい?行くよ。」
「あ、いや。…あぁ。」
「…」
俺の様子に八神が首を傾げた。
誤魔化すように先に部屋を出た。
エレベーターに乗り込むと、八神の首に腕を回した。
八神は驚いたような顔をしていたが、俺はそんな事はお構いなしに引き寄せてキスをした。
触れるだけのキスだ。
「…」
ゆっくり唇を離した。
「…どうしたのだい?いきなり。」
「…悪いか。」
「ふふ、嬉しかったよ。」
エレベーターを降りて、八神がリモコンキーでロックを解除して車に乗り込んだ。
俺も助手席に乗り込んでシートベルトをした。
最初は恐る恐るだったこの車にもすっかり慣れた。
堂々と助手席に座れるくらいには慣れたと思う。
車内では何故か無言だった。
ラジオの音が妙にデカく感じた。
無言のまま駅前に着くと車が端に止まった。
「送ってくれてサンキューな。」
「どういたしまして。…蹴人、いってらっしゃい。」
「あぁ。…お前も…その、なんだ…いってらっしゃい。」
いってらっしゃい…
八神とこんな事を言い合うとは思ってもいなかった。
シートベルトを外して、ドアを開けた瞬間、八神が腕を掴んで引き寄せられた。
そして、啄むだけの優しいキスをくらった。
「…蹴人、愛してるよ…」
耳元でそう囁かれた。
熱くなる顔を隠すようにして八神から離れて車を降りた。
いつまでも耳に残る言葉は無駄に甘くて、そのキスはほのかなコーヒーの香りがした。
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