翌朝、目が覚めた。 隣に八神は居なかった。 バカデカいベッドの上でゆっくり体を起こし、寝ぼけ眼を擦って伸びをした。 それと同時にこれでもかってくらいに腹が鳴った。 あの後、八神に食べさせてやろうと折戸さんに頼まれていたお粥を温めていた時に、思いっきり焦がした事を思い出した。 仕方なく、八神が炒飯をチンして二人で分け合って食べた。 それは腹も鳴る筈だ。 軽くボヤったせいで、俺は八神に一切のキッチンへの立ち入りを禁止された。 看病どころか、食ったものの片付けまで含めてキッチン周りは全部病人の八神がした。 その後、薬の口移しを強請られたけど思いっきり蹴っ飛ばして拒否してやった。 お互いにクタクタで身支度もそこそこに早めに就寝して今に至っている。 「蹴人おはよう。ごめんね、起こしちゃったかな。」 「ん、今起きた…」 八神はシャワー浴びていたらしく、濡れた髪をタオルで拭きながらバスローブ姿で寝室に入ってきた。 なんだか朝から刺激が強すぎる。 昨日の小っ恥ずかしい色々を思い出したからだ。 「顔を洗っておいで。その間に朝食を用意しておくよ。」 「ん…」 ベッドから降りて、トイレ済ませて、洗面所で歯みがきをしてから軽くシャワーを浴びた。 リビングに向かうとダイニングテーブルに朝食が用意してあった。 八神はといえば、ワイシャツにベスト姿でダイニングチェアに座って足を組んで新聞を読んでいた。 俺が席に着くと八神が顔をあげて笑った。 「すっきりとしたかい？さぁ、食べようか。」 「あぁ。」 俺は正面に座って、八神は新聞を折って隣のスペースに置いた。 いただきますと手を合わせた俺を何故か八神は上機嫌で見ていた。 こんがり焼けた食パンにサラダ、フルーツにヨーグルトにコーヒー… 普段朝食を食べない俺からしたらかなり豪華な朝食だ。 「もういいのか、その、体調は…」 「おかげさまでね。君が献身的な看病をしてくれたからかな。」 「…嫌味か。」 昨日ろくに食べてないせいでがっつく俺を見て八神がまた笑った。 「蹴人、誰も取ったりなどしないのでね、ゆっくりとよく噛んで食べなさい。」 コーヒーを一口飲んだ。 今日も甘めだ。 「だから、甘すぎるって言ってるだろ、コーヒー。」 「空腹なのではないかと思ってね。蹴人、今日の予定は？」 「午前中は大学で、昼からバイト。…つか、このオレンジ超美味い。」 「そうかい？俺の分も食べてよいよ。」 「マジか？」 「前から思っていたのだけれど、君はとても美味しそうに食べるよね。見ていて気持ちがいいよ。」 「そうか？」 結局俺は八神の分も美味しく平らげた。 八神に無茶苦茶ガン見されながら… 食べているところを見られるのは恥ずかしい。 「大学には直接行くのかい？」 「いや、一度帰る。」 「それならば、少し早めに出ようか。家まで送るよ。」 「…あー…駅まででいい。」 こんなデカいマンションに住んでいる八神をあのアパートに連れて行くのは恥ずかしい。 八神とは住む世界が違いすぎる。 「そうかい？」 「あぁ。」 その後は二人で食器を片付けた。 もちろん、俺は皿を下げるだけだ。 八神はキッチンには入れてくれなかった。 「蹴人、乾燥機に服が入っているから着替えを済ませておいで？」 洗い終えると八神はリビングを出て行った。