120 / 270

第37話

汚れた八神の手と床が見える。 長くて綺麗な指… 俺を散々甘やかす指… 憎らしい指… 「はぁはぁ…は、ぁ…」 ガクッと崩れかけた俺を八神が支えて引き寄せられた。 「蹴人…愛しているよ…」 「はぁ、はぁ…ッ…は、ぁ…」 頭がぼんやりしている。 すぐ近くに居る筈の八神の声が遠い。 「先程の行為も悪くはなかったのだけれど、俺は自分の手で君に気持ち良くなってもらいたいのだよ。」 「は、ぁ…ッ…黙れ…」 八神がクスクス笑いながら動けなくなった俺の後処理をした。 その後、きちんと薬も塗られて、気崩れたバスローブも直してくれた。 八神の腕の中で、閉じていた目を開いた。 「…蹴人、いい加減に俺を好きになりなさい。」 耳元で囁く八神の声は甘すぎてクラクラした。 「黙れ…」 「…君の答えを聞かせてはくれないのかい?」 愛だの恋だのは信じない。 でも… 八神の言葉は… 俺は返事の代わりに全体重をかけて寄りかかった。 「…」 言葉にはしない。 まだ自分でもよく分からない事が多すぎる。 無責任な言葉は好きじゃない。 「今は許してあげるよ。けれど、いつかは…君の気持ちが定まった時にはきちんと聞かせてほしい…」 「…知るか。」 「ふふ、強情だね。」 「…黙れ。」 今はこれでいい。 ずっと気になっていた。 モヤモヤした気持ちの正体… まだこの気持ちを認めるのにはまだ時間がかかりそうだ。 でも、いつかは言う日が来る。 俺は多分もう… 頭の中に二文字だけがハッキリと浮かんだ。

ともだちにシェアしよう!