124 / 270

第1話

現状として、蹴人との関係はセックスフレンドという事に落ちついている。 しかし、今の関係を継続させようなどとは欠片も思ってはいない。 セックスフレンドなどという低俗な関係で終わらせるつもりはない。 俺は、彼の特別な存在になりたいのだ。 その為に、毎日の電話やメールは欠かさない。 安易ではあるが、形はどうであれ彼の日常に入り込む事こそが有効なのではないかと考えての事だ。 今日も折戸の目を盗んで蹴人に会いにカフェへ向かった。 電話だけではもの足りない。 店内に入って、窓際の奥の席に座った。 蹴人の姿は見えない。 店員がオーダーを取りに来たが当たり障りなく断った。 折角なのだから蹴人と話がしたい。 暫く待つと、渋々といった様子で蹴人が近づいて来た。 「いらっしゃいませ、お客様。とっととお仕事に戻られてはいかがですか?」 引き攣った笑みを浮かべて可愛い気のない事を口にする蹴人は今日も可愛らしい。 「ふふ、相変わらずだね、蹴人。昨日はとても可愛らしかったというのに。」 「…死ね。」 「酷いなぁ。」 「ご注文はお決まりですか?」 「では、アイスコーヒーをいただこうかな。」 「アイスコーヒーですね。ご注文承りました。ごゆっくりお過ごしください。」 蹴人はそう言うと一礼して立ち去ってしまった。 暫く蹴人を待っていると、俺の席に凄い形相の折戸が向かってきて、思いのほか早く見つかってしまった事に苦笑した。 「何をしているのですか、貴方は!!」 「えーと…息抜き、かな。」 「ほら、帰りますよ。…あ、黒木くんすみません、社長が迷惑をかけたようで。お代は丁度あると思うので確認してください。」 折戸が俺の腕を引っ張りながら調度奥から出てきた蹴人に頭を下げた。 そしてスーツのポケットから小銭を出して、蹴人の持っていたトレーに乗せた。 その小銭を蹴人が数えた。 「確かに。」 「なにを言っているのだい、折戸。折角蹴人が作ってくれたというのに…」 「100%黒木君が作った物だと分かっているアイスコーヒーをテイクアウトなんてしたら、眺めているばかりで仕事が捗らないのは目に見えていますからね。」 「折戸、なにも蹴人の前でそのような事を言わなくてもよいではないか…」 「貴方が悪いのですよ。」 「…折戸さん、なんか毎回毎回大変ですね。」 「いえ、いつもの事ですから。」 「アイスコーヒー、休憩時間にでもいただきます。いつもありがとうございます。」 「では、失礼しますね。…ほら社長、行きますよ。」 折戸に引かれてカフェを出た。

ともだちにシェアしよう!