159 / 270
第36話
翌朝、異様な頭痛と吐き気に襲われて目が覚めた。
視界がぼやけて起き上がるに起き上がれない。
風邪の兆候がある。
蹴人に折戸を呼ぶように頼んだ。
まだ居ない折戸のガミガミと叱る声が聞こえるようで更に頭痛が酷くなった。
折戸の小言の内容はおおよそ検討がついた。
そして、蹴人が連絡を入れて数十分後、折戸がやってきた。
足音からその機嫌の悪さが伺えた。
「総一郎、貴方という人は!!馬鹿なのですか!?」
「…折戸、…あまりガミガミと言わないでおくれよ…」
「ガミガミも言いますよ。出勤して来いとは言いませんが、此方でできる仕事は私の監視の下でしっかりとやっていただきますますので、あしからず。………大体、啓一郎君はどうするつもりですか?今日、空港まで送ると言っていましたよね?」
「あぁ、そうだったね。…折戸、悪いのだけれど、俺の代わりに送ってあげてほしいのだけれど…」
「まったく…」
「ごめんね、折戸…」
「貴方に迷惑をかけられるのはいい加減慣れました…といつも言っているでしょう?」
約束をしてしまった手前、見送れない事に罪悪感を覚えたが、風邪を悪化させるわけにはいかない。
折戸もその事を考えた上で代役を買って出てくれたのだと思う。
折戸が寝室を出て行った。
微かに話し声が聞こえる。
折戸と蹴人の声だ。
何を話しているのだろうか。
暫くすると、また不機嫌な足音が近づいてきた。
「折戸?」
「総一郎、私は啓一郎くんを送り届けてきますので、貴方にはせめて自宅でできる範囲の仕事はしていただきますからね。風邪だからといって容赦はしませんよ。私が居なくなったからといっておサボりをするのは禁止ですからね。」
折戸はどこまでも折戸だ。
釘を刺す事も忘れない。
ベッドに鞄から取り出したノートパソコンを置くと啓を迎えに行く為に出て行った。
俺は身体を起こして仕事や読書の際に使用するメガネをサイドテーブルの引き出しから取り出してかけ、パソコンを開いて立ち上げた。
暫く打ち込みをしていると気配を感じた。
「…蹴人?」
「あぁ、悪い。邪魔したな。」
「よいよ、こちらへおいで。」
パソコンをベッドに置いてから蹴人を呼んだ。
蹴人が近寄ってきて、ベッド端に腰をかけた。
「…行かなくて良かったのか、見送り。」
「見送り?…あぁ、それは啓の事かな。」
何故、蹴人が啓の見送りの話を知っているのだろうか…
折戸から聞いたのだろうか…
不思議で仕方がない。
「…誰だ。」
蹴人のその声は不機嫌そのものだ。
なにをそんなにも不機嫌になっているのだろうか…
それをヤキモチかもしれないと思うのは、いくらなんでも自惚れがすぎる。
でも、もしそうであるのならば…
あまり期待をするのはよくないと思いつつも、どうしても期待してしまう。
「弟だよ。」
相手が弟だと分かり、蹴人の不機嫌な態度が少しでも和らいだのならば期待してもよいのだろうか…
「…弟?」
蹴人が少し驚いた様な声をあげて俺を見た。
ともだちにシェアしよう!